2020年都知事選 いのちを守る一票を

公開日 2020年07月02日

都議会議事堂

医療提供体制の拡充を

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の拡大により、パンデミック発生時の対策が脆弱であり、感染症患者を受け入れるための病床や人員が圧倒的に不足するなど、東京都においても医療提供体制の不備が次々と明らかになった。

 国が進めてきた地域医療構想と病床削減を進める医療費削減政策は、コロナ禍で全面的な見直しを迫られており、破綻したと言えるだろう。新興・再興感染症の流行や災害発生などの緊急事態を想定し、必要な病床数や医療提供体制について再検証が必要だ。都民のいのちを守る医療提供体制と社会保障予算の拡充を求めたい。

都立・公社病院の独法化は中止を

 東京都は、都内8カ所の都立病院と6カ所の公社病院の独立行政法人化について「2022年度内をめど」とする方針を2020年3月31日に発表した。

 都立・公社病院がCOVID―19感染者の受け入れ先となり、都民の健康と安全の砦として機能しているその最中に、独法化の方針をトップダウンで打ち出す乱暴な手法は、医療者として看過できない。独法化の方針を撤回し、今後の医療提供体制を検討する中で、議論を尽くすべきだ。感染症対応病床を民間病院で維持していくことは難しく、公立・公的病院の役割が見直されている。

保健所機能の抜本的強化を

 保健所は公衆衛生活動の中心的存在として住民の生活と健康を支えてきた。しかし、保健所の業務が変わらない一方で、保健所数、人員は削減されてきた。その結果、COVID―19の感染拡大にともなって、都民がPCR検査を受けられない事例が多発する一因となった。

 保健所の業務量に応じた適切な人員を配置するとともに、保健所の数を増やし、保健所機能を強化することが急務だ。

いのちを守る施策を

 政府は持続化給付金、雇用調整助成金、家賃支援給付金などの各種助成金・給付金制度の支援を始めているが、申請に時間がかかり、支給のスピードが遅い。根底に「休業に伴う補償や損失の補填は行わない」という方針があるため、各種制度の申請要件を厳しくし、対象者を絞り込む意図が透けて見える。「休業要請はするが、補償はしない」という姿勢は、東京都にも共通している。

 緊急事態宣言の発令に伴い事業活動が制限される中で、雇用統計の急激な悪化が明らかになっている。4月の就業者数は6628万人で、前年同月に比べ80万人減少し、88カ月ぶりに減少に転じた。完全失業者数は189万人で、前年同月に比べ13万人増加し、3カ月連続の増加。完全失業率は2・6%で、前月に比べ0・1ポイント上昇した。4月の休業者数は過去最多の597万人となり、2月の196万人から一挙に401万人増えた。経済活動の制限に伴う「潜在的な失業者」(休業者)が激増していることを示している。事業者への東京都独自の手厚い支援が求められている。

生活保護 申請件数が急増

 4月の生活保護申請件数は、東京23区で2107件となり、前年同月に比べて39%増加していることが明らかになった(朝日新聞社調査)。5月には申請件数がさらに増えていることが予測される。生活困窮者や非正規雇用労働者の実態を把握し、住居を確保するなど、憲法第25条の生存権規定に基づき、いのちを守る政策を急いで進めて欲しい。

カジノ誘致は認められない

 協会は一貫してカジノ誘致に反対を表明してきた。東京都港湾局は臨海副都心青海地区にカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致することを想定して、調査報告書を作成している。カジノは、ギャンブル参加者に依存症などの深刻な健康被害をもたらし、いのちの危険を生む。貸し込みや取り立て、様々なマネーロンダリングなどで、反社会勢力が蠢くカジノは、けっして家族連れが近づけるようなリゾート施設にはなり得ない。社会の腐敗と公害を発生させるカジノ誘致は断念すべきだ。

都知事選挙の争点は?

 新興・再興感染症対策と災害対策の強化、高すぎる国保料、東京都大気汚染医療費助成制度の改善、延期された東京オリンピック・パラリンピックへの対応、上下水道の民間委託、アスベスト被害対策、危険な羽田新ルートなど、都知事選挙の争点、都政の課題は山積している。

 企業業績が悪化すれば、潤沢と言われる東京都税収も、落ち込むことが予測される。コロナ禍で、経済効率最優先の新自由主義の問題点が指摘されている。今後は不要不急の道路建設や大規模事業を見直していかなければ、都民のいのちと健康を守る社会保障予算の確保は難しくなるだろう。政治・社会の在り方が根本から問われている。

 都知事選候補者の公約を冷静に見極め、いのちを守る一票を投じたい。

 


 

(『東京保険医新聞』2020年6月25日号掲載)