[シリーズ]コロナ禍での診療を考える⑤

公開日 2020年10月13日

コロナ禍での診療を考える⑤ 変わりはじめた日常

【写真】丸本百合子先生

百合レディスクリニック 丸本 百合子

 6月頃までは来院者が激減していたが、9月に入り子宮頚がん検診も始まり、患者さんは戻りつつある。診療所は常に病院との連携が必要だが、5月頃は近隣の基幹病院で相次いで新型コロナの院内感染が発生し、外来の縮小・閉鎖、分娩予約の縮小、手術の延期などの対策がとられたため、紹介先に苦慮した(院内感染が発生していない病院でも、感染が報じられた病院からの転院希望の患者さんの対応に追われ、同じような対策がなされていた)。しかし各病院とも院内感染の克服は迅速で、ほどなくして診療再開に至り、現在では以前と変わらず紹介を引き受けていただけるようになった。

 この間電話による処方箋希望は多かった。オンラインでなくても、同じお薬の継続は電話だけで対応可能だが、事務職員の手間がかなりかかる。ただ緊急避妊薬(当院では院内処方)だけは、避妊に失敗してから72時間以内に服用という制約があり、郵便事故などで薬の到着が遅れたり、処方箋を発行しても最寄りの薬局に在庫がない、などのトラブルに責任が持てないので来院を指示したが、これは今後の課題でもあろう。

 緊急事態宣言の頃は暇であった分、患者さんのお話を十分聞いてあげられた。マスクをしていても、長時間の会話は感染の危険も高まるので、診察室のカーテンレールにもビニールシートをかけた。普段は土曜日や仕事帰りなど、混む時間にしか来院できない患者さんが、在宅勤務のため、平日のすいている時間帯に来られて長々と話していかれることもあった。

 子どもと夫が一日中家にいるストレスで体調不良を訴える患者さん。今の住宅は在宅で仕事ができる構造にはなっていない。家族がくつろぐための空間で、外で遊べないストレスを抱えて騒ぎまくる子どもの相手をしながらの仕事・会議にはかなり無理がある。テレワークの推進には、住居内に仕事に専念できるスペースの確保が不可欠だ。

 また、女性は非正規労働者が多いため、コロナで仕事を失った人もいる。東京都から目の敵にされた「夜の街」で働く患者さんは、経済的困窮と差別に苦しみ、感染の危険におびえている。しかしみなコロナのせいだと思えば、どこにも文句が言えないから、診察ついでに吐き出せて、少しはすっきりしてもらえたかもしれない。

(『東京保険医新聞』2020年10月5日号掲載)