[特別寄稿]新型コロナウイルス受け入れ 最前線からの報告

公開日 2020年11月11日

 

新型コロナウイルス受け入れ 最前線からの報告

 医)直和会 平成立石病院 地域救急医療センター 大桃 丈知

 新型コロナウイルス感染症は、今もなお医療業界だけでなく日本経済全体に大きな影を落としている。

 思い返すと2019年12月の時点では、まだ対岸の火事だった。当法人は1月末に中国武漢から帰国した邦人の一時収容施設に対COVID―19医療チームを派遣したのを皮切りに、ダイヤモンド・プリンセス号での医療救護活動にも継続的に携わった。

 当院は、これら現場での経験を踏まえて2月16日から新型コロナウイルス感染者の入院治療を開始し、現在も継続している。本稿ではCOVID―19受け入れの最前線であるERでの感染制御の工夫と、入院病棟での課題について述べる。

「空間的分離」のため受け入れスペースの確保

 感染症対応の原則は、時間的分離と空間的分離であるが、年間9000台を超える救急搬送要請に応需している現状では、時間的分離はもともと不可能であった。

 発熱患者が急増した4月には、空間的分離が可能な受け入れスペースが限られていたため、かなりの数の救急搬送要請に応需できなかった。これに対しては、災害用簡易テントを展張して臨時受け入れ個室を確保する方策、外来化学療法室を休止して感染症用にヘパフィルター付きの簡易陰圧ブースを複数台設置する方策を実行し、可能な限り空間的分離が可能なスペースを確保し、発熱者の救急搬送要請に応需できる体制を整えた。

 これらの対応に加えて、5月19日から抗原定性検査が実施可能となり、発熱者に対する確定診断までの時間が格段に短縮された。これにより、発熱患者に対するERの診断効率が格段に上がり、空間的分離を行う診療スペース・結果待機スペースの効果的な運用が可能となった。

スタッフの院内感染・疲労への対策

 ERは常に感染の危険にさらされている。PPEの適切使用など感染防止策を厳と成すことは云うまでもないが、万一スタッフに罹患者が出ても業務を継続できるように、救急搬送患者に接する機会が最も多い救急救命士科の要員11名を2チーム制にして運用している。

 COVID―19入院専用病棟は、陰圧構造の19床をもって運用している。専用病床はERとは別棟の1階に位置し、放射線や臨床検査などが入る2階を挟んで3階以上のICU・HCUや一般病床とは空間的に分離された安全な構造である。

 入院患者にあたる医師は原則専従としている。看護スタッフも固定制であるが、長引く対応により肉体的にも精神的にも疲労の蓄積は否めない。COVID―19専用病床のスタッフを精神的に孤立させない一つの試みとして、院内感染対策委員会のメンバーで構成される他病棟の看護スタッフが応援体制を取って効果を得ている。

安定的な勤務体制のため継続的な行政支援を

 新型コロナウイルスの収束時期は未だに計ることは出来ず、これからも対応が継続していく。ERやCOVID―19専用病床でより安全に安心して継続的に勤務できる体制を構築することが我々に課された最大の課題である。

 武器が無ければ戦えない。まして相手は目に見えない未知のウイルスである。COVID―19対応にあたるスタッフへのPPEを含む医療資器材の継続的な安定供給は必須であり、事務方の努力に加えて行政の支援が望まれる。

(『東京保険医新聞』2020年10月25日号掲載)