オンライン資格確認 誰のための制度か

公開日 2020年11月26日

 
山田健太氏は「マイナンバー対応で各自治体に過重な負担がかかっている。オンライン資格確認が導入されれば医療現場で同じことが起こる危険性がある」と懸念を示した(10月14日、セミナールーム)

 経営税務部は10月14日、マイナンバー問題学習会を開催し、18人が参加した。「個人情報の〈利活用〉がもたらす危険~医療分野におけるデータ集中管理・マイナンバーカード活用を考える」をテーマに、講師として山田健太氏(専修大学文学部ジャーナリズム学科教授)を招いた。

 新型コロナに対する自治体による支援金交付等について、たびたび対応の遅れが指摘されている。本来、コロナ対応の遅れは政府の責任であるが、政府は自治体のデジタル化の遅れに責任転嫁しようとしている。コロナ危機に乗じて経済成長戦略としての「行政デジタル化」が図られようとしており、2020年は政府予算の集中投下がなされる1年である。山田氏は、「その唯一無二のツールがマイナンバーカードであり、一元管理された情報を成長戦略優先で活用するものだ」と指摘した。

 また、菅首相の「スガノミクス」の目玉として、デジタル庁設置などの戦略がある。コロナの追い風、経済界の支援もあり、予算措置も無尽蔵だ。

 政府はデジタル化戦略を前のめりに進めている。2015年、2020年の個人情報保護法改定、医療情報については2017年の医療ビッグデータ法(次世代医療基盤法)により、要配慮個人情報を匿名化すれば本人の同意を得ることなく収集・利用できる仕組みが作られてきた。

運用はブラックボックス

 医療機関での保険証のオンライン資格確認が2021年3月から始まる。政府は2023年3月までにすべての医療機関でオンライン資格確認を導入することを目標にしている。しかし、レセプトオンライン請求用のインターネット回線の設置、資格確認用のパソコンの設置などハード整備の負担、一般インターネット回線を使うため情報漏洩の可能性がありセキュリティ上の不安がある点、医療機関窓口での患者の顔認証作業、機器操作などの手続き上の煩雑さなどの問題が未だ解決されていないままだ。複雑な利用行程において実際の作業を請け負うのは半官半民の業者であり、具体的な運用の実態はブラックボックス化していることを山田氏は指摘した。

患者・医療機関のための制度になっていない

 山田氏は、「誰のための何のための制度かを問う必要がある」とした上で、「医療情報データベース、マイナンバーカード、医療機関窓口に設置されるカードリーダー、そして顔認証システムは、製薬メーカーなど民間利用のためであり、患者や医療機関にとって一体どんなメリットがあるのか。今のままでは明らかに患者・医療機関のためにはなっていない。検証し、現場から問題点について声を上げていく必要がある」と強調した。

 参加者からの「医療者にとってあるべき情報活用のあり方とは」との問いに対し、山田氏は「政府の言うマイナンバーの技術論の土俵に乗らないことが大切だ。社会や医療現場にとって、どんな環境が望ましいのかという論点で考えるべきだ」と答えた。

(『東京保険医新聞』2020年11月5日号掲載)