公開日 2021年01月29日
コロナ禍での診療を考える⑨ コロナ時代に診た患者2名ーラポールの重要さ
永寿堂医院 松永 貞一
この1年、全世界をCOVID―19(コロナ)が席巻している。目に見えぬ小さなウイルスのために人々の行動が大幅に制限されているのは、ある意味で悲喜劇である。更に、人々の考え方までが妙に歪曲してしまったように感じるのは、僕だけだろうか?さて、本稿では、当院で診たコロナ患者2名について紹介し「かかりつけ医」の大切さを示したい。
症例1 67歳男性、主訴=①頭痛②節々の痛み(主に肩甲骨周辺と肘関節)。
発熱無し。数年前に板橋の会社で勤務中、心筋梗塞の発作に襲われてから、同地の病院でフォローアップされている。自宅は葛飾。
今回、頭痛が9月7日からあったが、コロナが怖くて受診しなかった。1週間後の15日に、頭痛薬を貰って会社に行こうと来院。この患者は、5年以上前に1度だけ、感冒で来院したことがあるだけで、事実上、全くの初診患者。全身状態は、概ね良好。ただ、軽く酩酊しているような感じはあった。心電図は、ほぼ正常。病名・病態がまったく頭に浮かばないため採血のみで一旦帰宅とする。午後4時に、検査結果が判明。CRP31・61㎎/㎗、血沈94㎜/h、AST202U/L、ALT159U/Lなど異常値のオンパレード。急遽、近所の大学病院に連絡して診療をお願いする。タクシーを呼んで病院に行ってもらったが、到着時にはかなり呼吸状態が悪く、速やかにICUに収容され挿管となった。この時の血液ガスはpO2は66・1mmHg、pCO2は25・3mmHg、酸素飽和度93%。胸部レントゲンはコロナの肺炎所見と一致した。PCRでコロナ陽性。9日後に抜管、26日目に退院となった。この患者はこれを機に、気軽に相談できる「かかりつけ医」を自宅の傍に持っていたら、こんな間一髪の状況にはならなかったのではと考え、今後は当院に定期的にかかりたいと挨拶に見えた。
症例2 38歳女性(銀行窓口業務)、主訴=発熱。
11月17日に38・6℃の発熱があったが翌朝解熱。しかし、18日の当院の発熱外来に来院。以前は当院の患者であったが、この数年はアクセスが簡易な年中無休の、敢えて言うとコンビニ診療所に通っている。コロナとの接触は病歴上なかったが、PPE着用し鼻咽頭拭い液を採取。1検体でコロナとインフルエンザの両方の試薬を用いてチェックできるデンカの抗原迅速診断検査キットを用いて検査した。コロナが陽性であったため保健所に連絡、翌日、保健所からの指示で近所の地域中核病院に入院となった。後に、他院での検査で、この患者の夫と7歳と5歳の子ども2名もコロナ陽性であることが判明。しかし、患者が自分の判断で動き回ったため、これら他の3名の詳細は分からない。結局、この患者は自己退院し、家族4人で数週間、自宅隔離で生活したと聞いている。
患者が自分だけで判断せず「かかりつけ医」に相談すれば別の対応もあったと思うが、情報過多で1億総名医と錯覚している時代、人はコンビニ診療所で「自分の判断で、自分の望む医療を買う」風潮になっているように思う。「かかりつけ医」との関係を密に保ち、ラポールが取れた人間関係を構築することが肝要と考えている。
(『東京保険医新聞』2021年1月25日号掲載)