【要望書】新型コロナウイルス感染症診療における濃厚接触者および自宅療養者への対応に係る緊急要望書

公開日 2021年02月22日

2021年2月19日

東京都知事 小池 百合子 殿
東京都福祉保健局 感染症対策部
  防疫・情報管理課 防疫担当 殿
 

東京保険医協会
会長   須田 昭夫
研究部長  申 偉秀

新型コロナウイルス感染症診療における

濃厚接触者および自宅療養者への対応に係る緊急要望書

 

 日頃の都民のいのちと健康を守る取り組みに敬意を表します。


 さて東京都は令和3年1月22日付で、福祉保健局感染症対策部長名による「新型コロナウイルス感染症地域流行に伴う濃厚接触者等への対応について」とする事務連絡を東京都医師会疾病対策担当理事宛てに発出しました。

 

 事務連絡では診療・検査医療機関に対して、①受診者が、同居者や所属する団体等で陽性者が確認され、濃厚接触者となった可能性がある場合については、受診時の症状の有無にかかわらず、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準」において、感染が疑われる要件とされる「医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染を疑う」に基づき、柔軟に行政検査(保険診療)の対象者とすること、②上記①の対応に基づき、濃厚接触者として検査を実施した場合、14日間の健康観察についても指導することを求めています。

 

 一方で、政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(新型コロナウイルス感染症対策本部決定)令和2年3月28日(同年5月25日変更)の「三 新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項」において、厚生労働省及び都道府県、保健所設置市、特別区は、感染が拡大する傾向が見られる場合はそれを迅速に察知して的確に対応できるよう、戦略的サーベイランス体制を整えておく必要がある。」として、戦略的サーベイランス体制を重要視してきました。これに従って、保健所を中心に濃厚接触者についての丁寧な情報収集がされてきました。

 

 ところが、今回の事務連絡によって、戦略的サーベイランス体制は崩れ、濃厚接触者の調査、判断、健康観察指導を行っていた保健所の機能の大部分を現場の医療機関に委ねたことになります。


 事務連絡を発出した理由に、新型コロナウイルスの流行を踏まえ、保健所に対し、「臨時対応として、管轄する地域の実情に合わせ、陽性者の重症化リスクに係る状況把握を優先し、濃厚接触者を把握するための積極的疫学調査については、重症化リスクのある方・集団を優先的に実施する」よう通知したことを挙げ、これに伴い「濃厚接触者より東京都発熱相談センターに相談があった場合、(中略)医療機関は保健所を経由せず、行政検査や指導等の柔軟な対応に協力」することを要請しています。

 

 しかし、添付のグラフのように、1月22日直前に、発表されている新型コロナウイルス感染者数は減少していても、死亡者数は増加あるいは高止まり傾向のままです。このことを勘案すれば、今般の取扱い通知については、国や都の感染症対策部門での論議の結果を反映しているかどうか疑念があります。これに加え、医療現場の態勢や意向などの事前調査が実施され、それが反映されている形跡は見当たりません。

 

 今般通知の内容は、本来保健所が担うべき戦略的サーベイランス体制、すなわち濃厚接触者や自宅療養者の病状および健康状態の把握に係る追跡調査業務を、地域で日常診療に加えて「診療・検査医療機関」として発熱患者を受け入れて実診療にあたる診療所の医師に対し、診療内容や症状悪化時の連携体制に言及することなく一方的に依頼するものです。

都内の一部地域では、保健所から「診療・検査医療機関」に対して、「自宅療養者のうち、かかりつけの患者について、基礎疾患の内服薬や、鎮痛・解熱剤などを処方するオンライン診療や訪問診療により、不安や痛みによる苦痛を和らげるよう」に求める要請が行われており、医療現場に事前の相談もなく一方的に要請したことは問題です。

 

 第3波といわれる新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況において、特に医療提供体制の逼迫、保健所の業務圧迫に伴う医療崩壊、保健所崩壊と言われる状況の改善は喫緊の課題であることはわれわれも十分に承知しております。しかしその解決のためには、保健所とかかりつけ医・医療機関従事者が円滑に連携し、地域における発熱患者を適切に診療・検査、追跡するための体制づくりが必要ではないかと考えます。また、今後一定程度流行拡大が抑制され、感染者数が減少する段階では、行政による濃厚接触者の調査、クラスター追跡等は極めて重要です。一部中止することは、感染が再び拡大し死亡者の増加につながることが危惧されるため感染対策として不十分と考えます。

 

 上記の理由から、以下について東京都の責任で早急に対処していただくよう緊急に要望致します。

 

 

1.保健所の通常業務から新型コロナウイルス対策を専門に行う部署を新たに設置して、十分な人員を配置し、戦略的サーベイランス体制を継続するために濃厚接触者に係る追跡調査等の業務は責任をもって実施してください。その設置までは、現場医療機関への濃厚接触者の調査、判断、健康観察指導の必要性を周知させ徹底させてください。

 

2.1)重症化リスクの少ない「濃厚接触者」については「診療・検査医療機関」で充分に対応すること、2)軽症・無症状患者については「新たに設置された部署」の了解の上で、「診療・検査医療機関」がオンライン診療または訪問診療を行うことを、地域住民および診療所等全ての医療機関に周知させてください。

 

3. 「診療・検査医療機関」において自宅療養中の患者の悪化を防ぐため、早期に投与できる有効性・安全性が確認された抗ウイルス薬の早期承認を後押ししてください。

 

4. 自宅療養中の患者が悪化した場合、速やかに入院治療が受けられるように、医師会等と協働して診療所と新型コロナ受け入れ病院との連携システムを構築してください。

 

5.「診療・検査医療機関」において、濃厚接触者の調査、判断、健康観察、および、自宅療養中の患者の診療をする際は、通常診療の傍ら療養患者の悪化に対応する必要があることから、通常の電話再診や訪問診療費用に対して相応の加算を設けることを国に求めてください。

 

以 上


新型コロナウイルス感染症濃厚接触者および自宅療養者への対応に係る緊急要望書[PDF:241KB]

国内および東京都感染者数と死亡者数~2021年2月14日[PDF:102KB]