病院有床診部シンポジウム コロナ禍での医療体制を問う

公開日 2021年03月10日

本田 宏 氏
吉澤 明孝 氏
堀 浩一朗 氏
大利 英昭 氏

 

公的・公立病院は地域医療に不可欠

 病院有床診部は2月6日、シンポジウム「コロナ禍での医療提供体制を考える~都立病院独法化、公立・公的病院再編に触れて~」を開催した。

 シンポジストは、①本田宏氏(NPO法人医療制度研究会副理事長)、②吉澤明孝氏(医療法人社団愛語会要町病院副院長)、③堀浩一朗氏(公益社団法人浅草医師会会長/医療法人社団良月会堀内科クリニック理事長)、④大利英昭氏(東京都庁職員労働組合病院支部書記長/駒込病院看護師)の4氏。

 医師等26人が参加(Zoom含)し、細田悟病院有床診部長の司会進行の下、コロナ禍における都立病院独法化、公立病院再編について意見を交わした。

低医療費政策の背後には医療の営利化

 本田氏は、日本では明治期より財政問題を理由として公的病院を抑制してきた歴史があり、昭和にはこのまま医療費が増加し続ければ国家が破綻するという「医療費亡国論」まで示された経緯を説明した。

 現状では病床数、医師数ともに強く抑制されているが、多くの国民はそのことに気付いていない。都立病院独法化はこの流れを一層推し進めるものであり、背後には医療を金儲けの道具にしようとする動きがあると強調した。

コロナで活躍の公立病院 一方で通常医療に支障

 吉澤氏は、区西北部医療圏では、都立大塚病院、公社豊島病院や、日大板橋病院等があるが、基準病床数が444床不足していること、医療圏内で病床が偏在していることを指摘しつつ、新型コロナウイルス感染症患者の受け入れについて、都立病院などのコロナの受け入れ病床が増加していると報告した。

 一方では、都立病院などの後方支援病院への外科患者等の紹介が困難な状況があり、癌手術などに遅れが生じている。由々しき事態であり、地域医療構想調整会議では機能分化についても検討するべきだと課題を示した。

開業医と連携 公立・公的病院は欠かせない

 堀氏は、区中央部医療圏にある台東区立台東病院について、病院運営協議会での機能評価も高く、PCRセンターに多数の医師の派遣があったこと、在宅訪問診療・施設療養をバックアップしていることを説明した。

 他にも都立墨東病院では外国人への対応や専門医療が必要な患者を多数受け入れていること、都立駒込病院で新型コロナウイルス感染症発生初期に講習会が開催されたことについて言及し、開業医が安心して患者の診療にあたることができるには、不採算医療にも積極的に応じてくれる公立・公的病院の存在が欠かせないと強調した。

都立病院の独法化で不採算 医療の継続が危ぶまれる

 大利氏は、独法化によって都議会は関与できなくなり、医療行政の方針を病院に反映させることは難しくなると指摘した。地方独立行政法人法第八十一条には、常に企業の経済性を発揮することが明記されている。今までのように不採算医療を行う確証はないと主張した。

 コロナ専門病床増設時の急な配置転換にベテラン職員が対応してきたが、独法化によって看護師等医療従事者の年功制給与体系が一部に限られることになるため、離職も懸念される。職員の質や労働環境は医療の質に直結する。現在都立病院会計には東京都より400億円の繰入が行われているが、独法化後も継続される保証はない。独法化を阻止する必要があると強調した。

都議会議員選挙にむけて―発信と政策の見極めを

 参加者からの「どのように現状を都民に伝えていけばいいのか」という質問に対し、本田氏は「大手メディアが扱わないなかでは、SNSなど様々な媒体を利用して繰り返し発信していく必要がある」と答えた。

 閉会挨拶で、細田病院有床診部長は「現在の日本では医療資源が絶対的に不足しているため、多くの医師が過労死レベルの労働を強いられている。新型コロナウイルス感染症を抑えこむため、日本の医療をこれ以上後退させないためにも公立・公的病院を死守しなければならない。都議会議員選挙で東京の医療体制を都民本位に改革する勢力が増えれば、今までの医療費削減路線を変革していくチャンスとなる」と述べた。

独法化中止求める署名 435筆 都議会へ提出

 協会は2021年1月から、「都立・公社病院の地方独立行政法人化を中止し、医療サービスの充実を求める請願」署名に取り組んできた。

 会員の皆様より435筆のご協力をいただき、2月8日に、協会が加盟している東京社会保障推進協議会を通じ都議会へ提出した(東京都全体では3万1千919筆)。

 この場を借りて御礼申し上げる。

(『東京保険医新聞』2021年2月25日号掲載)