[視点]再生可能エネルギーへの転換を進めるために

公開日 2021年05月13日

再生可能エネルギーへの転換を進めるために

                     

環境エネルギー政策研究所 所長 飯田 哲也

 

 今年は福島第一原発事故(3・11)から10年が経過した。この10年で世界は再生可能エネルギーの飛躍的な拡大が進み、大転換しつつある。ところが日本だけは、その大転換に背を向けて、停滞している。

 なぜ日本で転換が進まないのか、その「日本の難題」を素描した上で、日本でどのように再生可能エネルギーの普及を進めるべきかを考察する。

■3・11から10年後の世界

 あらためて、この10年を振り返ると、私たちは今、大変革のまっただ中にいることが分かる。エネルギー関連では、電力分野と運輸交通分野の二つの分野で、「百年に一度」と呼ばれる大変革が、ほぼ同時進行的に進んでいる。

 電力分野では、風力発電と太陽光発電の普及拡大とコストダウンが著しい(図1、2)。2009年からの10年で世界全体の風力発電は160GW(ギガワット、100万KW)から650GWへと4倍に拡大し、コストは7割下がった。太陽光発電は、23GWから630GWへ27倍に拡大し、コストは9割下がっている。風力発電と太陽光発電は、今や世界の多くの国や地域で石炭火力を下回るコストになっただけでなく、今後も下がってゆく見込みだ。

 ドイツが2000年に導入した固定価格買取制度(FIT)が中国を始めとする世界各国に広がり、それが市場拡大と技術学習効果による性能向上とコストダウンという好循環を生み出したのだ。

 化石燃料や原発をエネルギーの基軸として見ていた「主流派」の専門家や企業・政治家は、太陽光発電と風力発電を10年前は「取るに足らないエネルギー」と見ていたが、今や「最も安い今後の主力エネルギー源」という認識に変わった。

 運輸交通分野でも、本稿では詳述しないが、電気自動車への電動化と同時に自動運転化やライドシェア(車両共有サービス)への移行が急激に進み、自動車産業の勢力図が根底から変わろうとしている。

 ところが日本は、後述するとおり、そうした疾駆する世界の大転換に背を向けて、取り残されつつある。

■3・11から10年後の日本

 3・11の直後は、誰も経験したことのないメルトダウンへの不安と東日本壊滅の恐れへの危機のただ中、日本の原発や電力の改革は、大多数の国民の総意だった。

 事故直後は反省を装っていた「原子力ムラ」は、翌年末に成立した安倍晋三自民党政権(当時)のもとで、露骨な原発推進姿勢へと開き直った。事故当事者(東京電力)が責任も取らず潰れないというモラルハザードがまかり通った結果、各電力会社は原発再稼働にまい進している。

 大手電力会社の独占体制の解体を目指す「電力システム改革」も換骨奪胎され、中途半端な「改革」にとどまった。2016年からの電力小売り自由化で600社を超える新電力が誕生したが、発電も小売も大手電力会社が8割超を占め、実質的な独占体制が維持されている。2020年に発送電分離が行われたが、送電部門が送電子会社に変わっただけで、ここでも実質的な独占体制は維持されている。

 3・11後の、唯一とも言える前向きのエネルギー変化は、2012年に施行された固定価格買取制度(FIT法)だ。その結果FIT法のもとで急拡大し一時はドイツを抜いて世界第二位の普及規模に達した太陽光発電を、大手電力会社がその独占を利用して封じ込めつつある。2014年には送電線の空き容量がないとして連系申し込みを停止し、2018年からは九州電力で太陽光発電の出力抑制を始めている。

 その後も、昨年に急浮上した「容量市場」や年末から年初に起きた日本卸電力取引所の市場価格高騰など、深層を見すえれば「政府の失敗」と「見えない独占」が絡み合って機能不全を起こしている。その結果、太陽光市場は崩壊しつつある(図3)。

■コロナ禍が浮き彫りにした「日本の難題」

 3・11から10年目に直面したコロナ禍は、世界各国が多少の時差はあっても同時に直面している問題であるがゆえに、日本の難題を浮き彫りにした。

 クルーズ船での防疫失敗、初期水際対策の失敗、異様に少ないPCR検査、医療支援への乏しさ、「アベノマスク」のような思いつき施策の強行など、政治の問題に加えて、行政、専門家、メディアなどが絡み合う課題を露呈した。

 「旧い政策」に不合理かつ過剰に執着し、「専門家コミュニティ」が世界から隔離され、政治と行政ががんじがらめで身動きがとれないなど、問題の構図が原発・エネルギーと重なり合う。もはや「日本の難題」と呼ぶべきだろう。

■再生可能エネルギー普及を進めるために

 「夜明け前が最も暗い」と言われるとおり、3・11から10年の日本の停滞は、夜明け前の逡巡なのかもしれない。危機に際したダチョウが砂に頭を突っ込むかのように日本が世界に背を向けて閉じこもっても、情報とマネーと人々の意思はやすやすと国境を越える。テクノロジーの急速な進展を背景とする電力とモビリティの大変革は、「黒船」となって日本の内向きの安寧を遅かれ早かれ打ち壊す。

 この10年の間に日本各地で再生可能エネルギーによる地産地消や地域の自立を目指す試みが数百も誕生した。3・11で気付いた地域の人々がエネルギーを「自分ごと」として捉え、立ち上がり、変化を先取りした実践にほかならない。

 これからの日本で、再生可能エネルギーの飛躍的な普及を進めるためには、こうした日本各地の取り組みや実践を繋げ広げてゆくことが王道だろう。小さくても無数の変革が燎原の野火のように広がり大きな大河となり、地域に根ざした自立した再生可能エネルギー社会へと変革してゆくのではないだろうか。

(『東京保険医新聞』2021年4月25日号掲載)