[視点]グローバル・タックスと税制の新潮流、日本の課税制度の課題

公開日 2021年06月12日

グローバル・タックスと税制の新潮流、日本の課税制度の課題

                     

グローバル連帯税フォーラム・代表理事 田中 徹二

 

●はじめに

 新型コロナウイルス(以下、コロナ)は依然として猛威を振るい、日本でも東京などで3度目の緊急事態宣言が出されています(5月20日現在)。世界ではコロナ対策のため、各国とも莫大な財政支出を余儀なくされ、また経済危機も進行しています。
 コロナ禍以前から、途上国、先進国問わず経済格差の拡大が問題となってきました。それは1980年代からはじまる市場原理を重視する新自由主義が、格差拡大と過少消費(過剰貯蓄)による長期停滞をもたらしてきたからです。そこにコロナ危機が襲い、格差や貧困がいっそう顕在化するに至っています。

 そこで注目されるのが、国際連帯税であり、また現在OECD(経済協力開発機構)を中心に議論されているデジタル課税です。これらの税制は一般的には国際課税と呼ばれていますが、グローバル・タックスという新たな概念から捉え返し、コロナ危機に立ち向かっていくツールにしようとしています。

●グローバル・タックスの萌芽―国際連帯税

 グローバル・タックスは研究者やNGOなどによって唱えられてきた概念で、国際公共財の創出または地球規模課題のための資金調達に向けた各国共通のシステムとして考えられてきました。

 その第一歩が、2005年フランスが提唱した国際連帯税です。それは地球規模課題の資金調達を目的に、国境を越える経済活動に対して課する税制です。

 具体的には、国際線航空や金融取引などへの課税が考えられ、2006年よりフランス他10カ国ほどで航空券連帯税として実施されてきました。その税収は、途上国の3大感染症といわれるエイズ・結核・マラリアなどの医薬品供給の財源になっています。しかし、各国の航空券連帯税は国際線航空利用者の運賃に税をかけるという点では同じですが、税率を含む税制スキームはバラバラで、グローバル・タックスの萌芽というものでした。

●グローバル・タックスと一国課税主義

 では、グローバル・タックスをどう定義すべきでしょうか。これを諸富徹・京都大学教授の著書、『グローバル・タックス―国境を超える課税権力』(岩波新書 2020年)から見てみます。同書では「自国の課税権の範囲で自己完結しない税、たとえばデジタル課税もそうだが、新しい国際共通ルールをつくって、その下で各国が協力しつつ実施していくタイプの税金」と定義しています。

 現在の税制は一国課税主義ともいうべきもので、それぞれの国家が課税権を専権として有していますが、それが及ぶのは国境の内側までです。ところが、時代はグローバル化やデジタル化へと進んできて、モノ、人、カネ、情報が易々と国境を超えるようになると、一国課税主義では対応できなくなりました。

 とくに問題なのは、ネット企業で、GAFA(アルファベット=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)等が今日のデジタル化した経済を独占的に支配してきました。同時に「悪質な課税逃れ」という問題も生じてきました。

 外国の企業が日本で稼ぐ場合、その企業が日本国内で支店や事業所等という「恒久的施設(PE)」を有していないと日本の課税権は及びません。従って、日本国内にPEなどを設置しないで、ネット上だけで販売等を行っていると、現在の日本の税制では(世界的にもそうですが)課税できません。

●デジタル課税と米国の新提案

 GAFAが各国の一国課税主義の限界やタックス・ヘイブン(租税回避地)を利用し、いかに税金逃れしてきたか、次の数字から明らかです。GAFAの税負担率は平均わずか15・4%で、世界5万社超の平均(25・1%)の6割にとどまっています。

 GAFAはじめ巨大多国籍企業がこうした過度な租税回避行為を行うことは、各国内の税収過小をもたらし、また企業間の公平な競争を阻害することになります。そこでOECDは公正な国際課税ルールを求めることになりました。その集約のひとつが「グローバルネット企業などがPEなしに活動する消費国での課税ルール(デジタル課税)」です。

 この集約に後ろ向きだったのが米国でしたが、バイデン政権に替わるや米国は積極的となり、デジタル課税につき、消費国での売上高や利益率の大きいグローバル企業100社を課税対象にする提案を行っています。今度の10月G20首脳会議で最終合意が得られるならば、「新しい国際共通ルールをつくって、その下で各国が協力しつつ実施していく」というグローバル・タックスに大きく近づくことになります。

●税制の新潮流と日本の税制改革

 国際的なルールに前向きなバイデン政権は、国内の税制でも画期的な提案を行っています。それはコロナ禍での財政悪化に対して大企業や富裕層への増税で賄おうとしていることです。そしてこれは米国内に留まらず、世界的な税制の新潮流となりそうです。

 これまで法人税や所得税の減税競争が行われてきた結果、税負担の不公平が重なり、所得格差が拡大してきました。こうした流れを、今回のバイデン政権の増税路線は逆転させます。

 一方、わが国もコロナ対策として莫大な赤字国債発行で凌いでいますが、今や国・地方の長期債務残高が21年度末で約1200兆円に膨らむ見通しとなり、持続可能な状態ではなくなりつつあります。しかし、政府では財政立て直しの議論はまったく進んでいません。ですから、この際世界の潮流に沿う形で、税収を上げかつ格差を是正するために、法人税率の改革、金融所得税の強化などが求められています。

 最後に、財政立て直しにとどまらず、日本は地球規模課題対策のために、例えばワクチンを途上国に供給する資金調達のために、国際共通ルールによる国際連帯税創出を各国に呼びかけるべきです。実際、河野太郎前外務大臣は一昨年から退任するまでSDGs達成資金調達のため国際連帯税創出を国際会議のたびに提案していました。こうした政治的リーダーが今日求められているのではないでしょうか。

(『東京保険医新聞』2021年6月5日号掲載)