[寄稿]公立・公的病院を守れ

公開日 2021年07月09日

公立・公的病院を守れ


東京保健生活協同組合蔵前協立診療所 所長 根岸  京田

民間病院バッシングは国の責任逃れ

 このコロナ禍を経験する中で公的病院の役割の重要性を感じなかった国民はいないだろう。

 新型コロナウイルス感染症の流行初期の、未だ病態が明らかでなかった頃の感染患者対応、流行拡大期における感染症病床の拡充、さらに新型コロナウイルス感染症に特化した病院への転換などは、経営課題を抱える民間病院には財政支援なしに踏み出すのは困難である。

 財界や一部マスコミには「民間病院は全国の病床数の8割を占めているにもかかわらず、新型コロナ患者の受け入れはごく一部にとどまり、公立・公的病院を大きく下回る」との指摘がある。しかし、それは自公政権の下で社会保障費削減・医療費削減政策が継続して行われてきた結果である。病院はギリギリの医師・看護師体制(1ベッドあたりで欧米の2分の1から3分の1)で、常に高い病床稼働率を維持せざるを得ず、それでも利益率は3%未満という経営を強いられている。これがパンデミックに対する対応を困難にし、大阪などで医療崩壊を招いた原因である。

 民間病院の体制が厳しくコロナ対応が難しいのは「そうしなければ生き残れない体制を作ってきた」国の責任であり、民間病院の機能分化・分担の遅れを指摘するのは全くの的外れである。

 新型コロナウイルス感染症との戦いは、治療に携わる急性期病院だけの課題ではなく、それ以外の疾患を受け持つ病院、後遺症のリハビリを行う中小病院、コロナ感染症後の診療や在宅療養を支える地域の診療所、さらには生活を支える介護部門も含めた医療・介護の総力戦である。いたずらに医療機関の分断を煽るような言動にはしっかりと反論するとともに、コロナ対応をするかどうかによって医療機関の選別をするような、まるでコロナを「踏み絵」のように扱う動きには警戒が必要である。

経営効率優先ではいのちと健康は守れない

 2020年末の厚生労働省地域医療構想に関するワーキンググループの報告書には、「新型コロナウイルス感染症対応が続く中ではあるが(中略)、地域医療構想の背景となる中長期的な状況や見通しは変わっていない」と書かれており、国は公的病院の整理・統合の方針を変更するつもりはないようだ。

 東京都病院経営本部は都立病院の役割として、感染症対応を含む「行政的医療」、難病医療や精神医療、周産期医療、救急医療などの「社会的要請から、特に対策を講じなければならない医療」、小児がん医療や外国人医療を含む「新たな医療課題に対して、先導的に取り組む必要がある医療」をあげている。これらはいずれも高度の専門性を持ったマンパワーを要する分野であるが、症例数の関係からどうしても不採算部門とされがちな分野である。

 都立病院の独立行政法人化の方針を打ち出したのは、2018年1月の外部有識者からなる都立病院経営委員会であるが、その理由を「都立病院が安定した経営基盤を確立し、今後も担うべき役割を持続的に果たしていくため」としている。しかし上記のような行政的医療をはじめとする医療サービスをどのように都民に保証していくのか、都立のままで何が問題なのかの説明は全く不十分であり、「赤字だからダメ」と言っているに等しい。そのような経営効率優先の医療で都民のいのちと健康は守れない。

 今回の都議選、さらにその先の衆院選を通じて、公的病院の機能を維持する公約を堂々と掲げた候補者を応援することで、国民のいのちと暮らしを守る都政・国政の実現を目指したい。

(『東京保険医新聞』2021年6月25日号掲載)