「視点」東京五輪と社会 政府と電通、大手メディアの「開催絶対」スクラム

公開日 2021年07月09日

東京五輪と社会
政府と電通、大手メディアの「絶対開催」スクラム

                     

本間 龍(ノンフィクション作家)

 

完全に政争の具と化した東京五輪

 各種世論調査での五輪開催反対(延期を含む)が約6割になっているのに、政府は東京五輪開催を強行しようとしている。多くの研究者や医療関係者が感染拡大の危険性を指摘しているのに、政府の強硬な姿勢が際立っているのは、一体なぜなのか。

 それは、五輪が菅政権唯一の延命装置になってしまったからだ。

 3度目の緊急事態発令やワクチン接種の遅れにより、様々な世論調査で菅政権の支持率は発足以来最低を記録している。そこに5月に実施された衆参補選での3連敗が重なった。今秋に予定される衆院選挙まで国政レベルの選挙がなく、従って菅政権が反転攻勢を示す機会は無い。そのため、「五輪の開催」だけが唯一、政権が世論の支持復活を託す手段になってしまったのだ。

 五輪を開催し、自粛疲れしている国民にお祭り気分を味わわせて支持率を回復させ、開催を成功と喧伝して衆院選を行い勝利すれば、菅首相の自民党総裁再選も可能という読みが働いているのだ。

 だが、このまま開催を強行すれば、大会中や大会後の感染爆発や、世界各国に東京で発生するかもしれない新たな変異種をばらまく危険性が指摘されている。政府もその危険性を承知しているが、だからといってここで五輪を中止すれば、コロナ制御に失敗し、五輪まで中止に追い込まれた無能政権というレッテルを貼られる。そして、その批判を引きずったまま衆院選に追い込まれれば、大敗することが目に見えている。だから、政権は意地でも五輪を開催したいのだ。

 だが、これは国民の生命を危険にさらす、博打のようなものだ。政府の医療分科会の尾身会長は、国会での質疑で「今のような状態であれば、普通なら五輪はやらない」とまで発言した。東京都医師会の尾﨑会長は、「無観客が最低条件で、東京の感染者が日に100人以下でないと難しい」とまで言っている。他にも多くの医療関係者・団体から、五輪開催は感染リスクを高めるだけだから中止または延期せよという声が上がっている。

 専門家がこれだけ声を上げているのを無視して、菅政権は僅かな成功の可能性に賭けようとしている。東京五輪はもはや「平和の祭典」などではなく、国民の安心・安全など完全に無視した、政権延命のための政争の具と化しているのだ。そしてそこには、電通を頂点とした、五輪開催で巨額の利益を享受しようとする大手メディアの存在がある。

「祝賀イベント」を巨大な儲けにする電通の存在

 電通は2020年の売上高が約4兆9千億円(2位の博報堂は1兆2千億円)という圧倒的なガリバー企業で、日本の広告業界内でシェア約3割を握り、広告だけでなく巨大イベント実施でも他社を圧倒している。

 その電通は東京五輪のマーケティングパートナーとして、招致から開催準備まで、実質的な作業のほとんどを請け負っている。五輪の広告・PR・コミュニケーション展開全般について独占的地位にあり、博報堂など他の広告代理店は競技会場の管理請負など、末端の業務しか参加できない。五輪の売上げの柱は放映権料とCM放映料、開催実施費などだが、電通にとって恐らく大きな売上げとなったのが、スポンサー企業の管理料収入だ。スポンサーの数が五輪史上、最多の67社となっているからである。

 前回のリオ五輪までは、スポンサー企業は1業種1社という取り決めがあった。例えるなら、トヨタがスポンサーなら日産は参加できないという決まりだが、東京大会はその縛りを無くし、同業種で何社でも参加できることとした。これはもちろん、売上げ拡大を狙った電通が、IOCを説得した結果である。

 そのため、ANAとJAL、三井住友とみずほ、東京メトロとJR東日本など、同じ業種で複数の企業が参加するようになった。中でも一番多いのは新聞社で、朝日・毎日・読売・日経・産経の全国紙と、北海道新聞社が名を連ねている。

 各社のスポンサー料金は伏せられているが、国内最上級のゴールドパートナー(15社)は1社あたり150億円、オフィシャルパートナー(32社)は60億円程度、オフィシャルサポーター(20社)は10〜30億円程度と見込まれている。  

 これらスポンサー企業の開拓をしたのが電通である。組織委はスポンサー収入を3400億円と発表しているが、その中に電通の手数料がいくら入っているかは明らかにしていない。

 筆者の計算では、本当のスポンサー収入は4200億程度で、そこから電通の管理料20パーセントを引いた額が、公表されているスポンサー収入ではないかと考えている。つまり電通はスポンサー管理料だけで800億円以上を稼いだと予想出来るのであり、東京五輪は同社にとってまさに金城湯池と言えるのだ。

 この莫大なスポンサー契約料以外にも、テレビ放映権料、様々な媒体でのCM放映料、グッズ関連のマーチャンダイジング料など、元々五輪に存在していた多くの利権が、電通の介在によって何倍にも膨らんでいる。そしてその恩恵に預かっているのが、スポンサーになっている全国紙(朝日・毎日・読売・日経・産経)とクロスオーナーシップで結ばれたテレビ局である。

 これらのメディアは、五輪開催によって発生する巨額の広告費(数千億単位)欲しさに、五輪翼賛報道を繰り広げてきた。最近になってようやく開催反対の社説(朝日)掲載やテレビ番組内での批判報道も見受けられるようになったが、全体では僅かであり、社をあげて五輪反対を明確にしている大手メディアは存在しない。つまり彼らの本音は、何があっても絶対、五輪開催なのだ。

 国民の不安、専門家からの警鐘を無視して開催に突き進む五輪は、決して政府だけの思惑で動いているのではない。その裏には、電通を頂点とした大手メディアのスクラムがあり、実はその存在こそが、民意を無視しての強行開催を可能にしているのである。


 

(『東京保険医新聞』2021年7月5日号掲載)