[視点]新型コロナ感染症の由来と対応

公開日 2021年10月12日

新型コロナ感染症の由来と対応

                     

須田クリニック 須田  昭夫

 

 新型コロナウイルス感染症発生から世界的流行へ

 21世紀に入ってからの20年間、地球には毎年のように新しいウイルス感染症が現れ、話題を呼んできた。SARS、MERS、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ、ジカ熱、などなどである。幸い、いずれも早期に終息してきたが、世界的なパンデミックが懸念されていた。

 熱帯雨林の乱開発が動物界と人間界を近づけ過ぎていることと、地球の温暖化がウイルスを媒介する生物の生息域を変えていることから、動物界のウイルスが人間界に侵入する変異を獲得する機会を得やすくなっていると指摘されていた。さらに巨大資本が最大利益を求めて活動する経済活動や、活発な観光事業などが人流を増大させており、感染症が蔓延しやすい下地を作っていた。

 今回問題になっている新型コロナウイルス感染症(以下、CoVⅡ症)のパンデミックは、中国雲南省に生息するコウモリが持つウイルスが、1500㎞離れた河北省武漢でヒトへの感染力と毒性を発揮したことにはじまったとされる。その過程の変異を示すウイルス群は、まだ発見されていない。

 2019年秋、武漢に新しい感染症の情報が流れた。12月にはヒト―ヒト感染する新型ウイルスの存在が濃厚となったが、報告した医師が感染して死亡し、情報が途切れた。しかし12月末には台湾政府がWHOに警告を発していた。翌年1月初めに中国政府は新型ウイルスの確認を否定したが、WHOはヒト―ヒト感染する新型ウイルスの存在を認め、中国政府も1月23日には武漢を封鎖した。折しも中国は春節の休暇であり、大量の観光客が海外に旅行した。WHOが求める感染症情報の迅速な共有と、速やかな渡航制限は実施されなかった。

浮き彫りになった医療人材、設備の不足

 大型客船ダイヤモンドプリンセス号が横浜港に到着したとき、感染者を船内に留め置いたことで、船内に感染を拡大した。客船の乗組員は感染症治療に慣れていない。観光立国を宣言して大量の観光客を迎え入れるならば、国際港や国際空港には感染者を速やかに収容する施設が必要だ。

 大型客船の感染者はやがて自衛隊中央病院に移送されたが、入院後は一人も死亡者を出さず、治療スタッフも誰ひとり感染することなく終息し、その技術の高さは称賛された。自衛隊には今後、防疫面での活躍が期待される。

 パンデミックは人の大量移動がウイルスを拡散することによる災害である。感染者の保護が蔓延を阻止する。今回、官邸が「中等症は原則として在宅」と要請したことが猛反発を呼んだ。在宅化は家庭内感染や予測しにくい死亡を増やし、医療従事者の生命も脅かして疲弊させる。

 日本は病床が多いと言われてきたが、CoVⅡ症に対して病床不足が露呈したという矛盾は、詳細な検討が必要だ。海外では療養病床や精神科病床は、設備や人員配置の点から介護施設に分類されており、医療病床には数えていない。手術や高度の医療を行う急性期病床の数は、日本と海外であまり違わない。日本は世界最長寿国とも言われながら、GDP当たりの医療費は先進諸国中の最低ランクである。低医療費政策が医療人材や設備の不足を招いている。

コロナ感染対策には真摯な対話が必要

 3度目の緊急事態宣言は6月20日に解除されたが、早くも7月12日には4度目の緊急事態宣言が発令された。その後、何度も期間が延長され、9月30日までとなっている。8月19日には感染者数が22府県で最多を更新した。20日には宣言の対象地域が6都府県から13都府県に拡大され、27日には新たに北海道など8道県が追加された。まん延防止等重点措置の指定地域は8月27日以降12県に及んでいる。感染の拡大がとまらない。

 オリンピックの強行開催に伴ってCoVⅡ症が激増する中、パラリンピック開会式翌日の8月25日、菅義偉総理はCoVⅡ症対策について、「明かりははっきりと見え始めている」と語った。新規感染者数に占める高齢者の割合が20%から3%に低下したことを言うようだ。しかし65歳以上感染者の実数は6週間に7倍となっており、若い感染者の増加が比率を小さく見せているだけであった。8日前の17日にも総理は、高齢者の発症・重症化は増加していないと述べており、意図的な虚言だろう。その日、東京都の重症者数は過去最多であった。8月26日は東京都の7日間平均の感染者数が1日あたり4300人を超えて、「制御不能な状態」と報告されている。国民の理解と協力が必要なときに、粉飾発言を行う意図は不明である。

 感染者数の激増により施設入所が困難になり、官邸が「中等症者は原則在宅医療」の方針を発表して以来、在宅死の増加など大混乱を招いている。菅総理は「医療体制の構築、感染防止の徹底、ワクチン接種を3本の柱として対策を進めて行く」と表明しており、いずれも重要ではあるが、入所施設が不足すれば医療が逼迫し、在宅化は家庭内感染を増加させる。ワクチンは供給不足のうえに効果が不透明で、3本の柱がいずれも決定力になれない。

 コロナは完璧な制圧は困難だが、自由放任は危険が大きいようだ。コロナ対策は政府の独断で進めることができず、国民との真摯な対話が必要であるということが明確になってきた。感染症病棟の整備、感染後に使用する治療薬の開発、全国を小さな地域に分割して対応するなど、大きな方針転換が必要かもしれない。
 

(『東京保険医新聞』2021年9月15日号掲載)