[視点]デジタル庁は何を狙っているか

公開日 2021年11月08日

デジタル庁は何を狙っているか

                     

共通番号いらないネット 原田  富弘

 

異例の官庁=デジタル庁はなぜ作られたか

 9月1日に発足したデジタル庁は、総理大臣直轄で他の省庁に勧告権があり、行政情報システムと関連予算を一括管理する強い権限を持つ異例の官庁です。また事務次官相当のデジタル監に民間人を充て、最高技術責任者や最高製品責任者などを民間企業から登用し、職員約600名の3分の1は企業と兼務可能な非常勤を含む民間出身者という民間主導の官庁です。

 菅前首相が行政・社会のデジタル化を「一気呵成」に進めると繰り返し、デジタル庁は1年間足らずで作られました。デジタル庁設置法案を含むデジタル改革関連法案は、45箇所の資料の誤りが示すように拙速に国会提出され、膨大な束ね法案を50時間程度の国会審議で成立させました。衆参それぞれ43項目の附帯決議が付いた問題点積み残しの法案です。その後も事務の要となるデジタル監人事の迷走や、特定企業を名指しした平井担当大臣の「干す、脅す」発言、業者癒着の発覚で幹部の処分が続くなど、発足前から問題が相次いでいます。

 デジタル庁の目的は、国と地方や医療・教育等の準公共分野の個人情報を全てつなぐことを可能にするため、行政情報システムを統一することです。IT基本法の全面改正、マイナンバー制度の利用拡大、自治体の情報システムの「標準化・共同化」、ガバメント・クラウドの設置と利用の押しつけ、個人情報保護法制の統一と自治体個人情報保護条例の国基準化などの法改正は、いずれも政府による情報共有をし易くします。

 成長戦略の「資源」として個人情報を利活用するとともに、政府による個人情報の効率的な管理・監視を容易にする「誰一人取り残さない」監視体制づくりであり、その中心がマイナンバー制度です。

マイナンバー制度の再構築を狙うデジタル庁

 2015年にスタートしたマイナンバー制度については市民の反発もあり、マイナンバーカードは普及せず、マイナンバーの提供も進まず、情報連携やマイナポータルの利用も低迷するという行き詰まり状態にありました。危機感を抱いた当時の菅官房長官の号令により、マイナンバーカードを2023年3月までにほとんどの住民に保有させるために、マイナポイントや健康保険証利用、市区町村での交付促進や公務員への取得強要などの普及促進方針を2019年6月に決定しましたが、その後も普及は遅々として進みませんでした。

 そのようなときに発生した新型コロナ流行をチャンスとみた政府は、マイナンバー制度の再構築に利用しようと「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」を2020年6月に設置し、12月にまとめた報告が法案の基礎になっています。

 政府はデジタル庁を作る理由として、新型コロナ対応でデジタル化の遅れが浮き彫りになったなど私たちの利便性向上のためであるかのように説明していますが、コロナ禍に便乗して抵抗を抑えてデジタル化を一気に押しつける強力な司令塔を作ったというのが真相です。

デジタル庁はどのように国家改造しようとしているか

 デジタル庁の発足式で菅前首相は、国全体を作り変える気持ちで知恵を絞ってほしいと挨拶しました。デジタル庁のもとに全閣僚等によるデジタル社会推進会議と有識者によるデジタル社会構想会議を設置し、12月の新重点計画策定に向けた当面の主な改革項目が示されています。

 中心はマイナンバーカードの活用推進で、健康保険証利用や運転免許証・在留カードとの一体化の推進、カードを使った公金受取口座登録の早期開始やワクチン接種証明のスマホ搭載などをあげています。

 しかし、9月22日の社保審医療保険部会に報告された健康保険証利用の状況では、顔認証付きカードリーダー申込施設は7月に「集中導入開始宣言」をしながら減少し、10月20日から本格運用予定にもかからず準備完了施設は5・6%です。交付済みカード約4800万枚のうち健康保険証の利用登録をしたのは10・9%で、市民はメリットを感じていません。

 行政情報の共有では、次期通常国会に情報連携を社会保障・税・災害以外に拡大する法案の提出、国の情報システムの徹底した統合・一体化の加速、自治体システムの統一・標準化の5年以内の実現、国・地方の情報連携のトータルデザインの検討の具体化など、全面的な作り替えをしようとしています。

デジタル庁による医療分野の改革

 また医療・教育・防災など準公共分野のデジタル化や情報連携を推進する体制を構築しデータ連携を実現するとして、医療分野ではオンライン診療の強力な推進やPHR(パーソナルヘルスレコード)の推進をあげています。

 デジタル改革法では健康増進法による自治体健診の情報連携を追加し、2019年法改正で追加された乳幼児健診の情報連携、検討中の学校健診と合わせて、生まれてから成人まで行政の保有する健診情報を連携しようとしています。また業者癒着が問題になった「統合型入国者健康情報等管理システム」では新型コロナ感染者管理システムHER―SYSを税関・入管・検疫のデータと連携させ、マイナンバー制度の個人情報保護措置を逸脱して作られた新型コロナワクチン接種システムVRSのデータを提供してワクチン接種証明に使うなど、APIというデータの外部提供の仕組みを拡大しています。2024年度開始予定の医師など国家資格のマイナンバー管理システムでは、マイナンバーカードを使いマイナポータルで申請手続することになっています。

 コロナ禍でデジタル利用の必要性は高まっていますが、対面サービスを中心にしデジタルは補完として利用すること、プライバシー保護の法制度を強化し、個人情報の連携は必要最小限にして本人が積極的に希望した場合のみに止めるなどの対応が、マイナンバーカード所持の強要や利用拡大を許さない取り組みとともに必要です。


 

(『東京保険医新聞』2021年10月5日号掲載)