公開日 2021年12月27日
2021年12月13日
東京都知事 小池 百合子 殿
東京保険医協会 会長 須田 昭夫
病院有床診部長 水山 和之
新型コロナウイルス感染第6波に向けた医療体制整備に関する要望書
新型コロナウイルス感染第5波では災害レベルの感染急拡大で病床が逼迫する中、国及び東京都は改正感染症法に基づく協力要請を発出(8月23日)されました。当会は医療現場の実態および課題を明らかにするため、当会所属の病院会員にアンケート調査を行い、以下の課題が明らかとなりました(別添「新型コロナ病床確保等への要請を受けての病院調査結果・概要」参照)。
第一に、新型コロナウイルス感染症に対応する病床の確保および都の要請する施設への人材派遣に応えるためには、構造上および人員の課題があり、感染症に対するスキルや余裕のある人員配置が不可欠です。新型コロナウイルス感染患者の受け入れによって「一般救急患者の受け入れが困難になる」ことや、受け入れた場合に「重症化した際の転院先が確保できない」との回答が相当数寄せられました。
第二に、国および都の協力要請では「不急の入院・手術の延期などの通常医療の制限」も視野に入れた上での新型コロナウイルス感染症対応が求められましたが、一般患者の生命予後に「重大な影響がある」「医療連携等でも影響はさけられない」との回答が9割にのぼりました。また、制限を回避するためにも、「新型コロナウイルス感染症だけでなく通常医療についても連携強化が必要」、「公的・公立病院を中心にコロナ専門病床を集中し、スタッフを養成すべき」との意見が多数出されました。
10月13日、都立・公社病院を独法化するための「定款」議案が東京都議会第3回定例会議で可決されました。新型コロナウイルス感染症患者の入院を受け入れる病院だけでなく、回復期支援病院が安心して受け入れを行うためにも、重症者を受け入れる病院の確保は欠かせません。この間の新型コロナウイルス感染症患者の受け入れに関しては、都立・公社病院が大きな役割を果たしました。今必要なことは、独法化するための議論ではなく、第6波に向けて都立病院の役割をいかに発揮するかの議論ではないでしょうか。都民のいのちと健康を守るために、以下のことを要望いたします。
記
一、第6波に向けて、新型コロナウイルス感染患者の軽症・中等症を受け入れて、都が整備した施設の運営に協力するためには、重症者の受け入れ病床を確保してください。
一、新型コロナウイルス感染医療に限らず、通常医療がおろそかにならないよう、医療連携に対する十分な支援を行ってください。
一、都立・公社病院の独法化に関する議論は一旦中止し、都立・公社病院を中心とした医療連携体制を整備することに全力を尽くしてください。
以 上
要望書「第6波に向けた医療提供体制整備について」[PDF:126KB]
2021年12月13日
新型コロナ病床確保等への要請を受けての病院調査結果・概要
東京保険医協会病院有床診部
新型コロナウイルス感染第5波では災害レベルの感染急拡大で病床が逼迫する中、入院が制限され中等症の患者でも自宅療養を余儀なくされました。デルタ株は急速に重症化する事例も多く、感染のピークを迎えた8月中に44人が必要な医療を受けられず自宅療養中に亡くなりました。
8月23日に国および東京都は、改正感染症法に基づき、都内すべての医療機関に更なる病床確保や人材派遣を要請しました。不急の入院・手術の延期など通常医療の制限も視野に入れて、総力戦に臨み、協力の求めに応じない場合は、勧告や病院名を公表するとしました。一方で、各病院では、新型コロナウイルス感染症医療と、通常の地域医療を両立するべく最大限の努力を重ねており、すでに限界に達しつつあるとの報告も寄せられております。
感染症対策と地域医療を守るための病院運営上の課題を明らかにするために9月10日に病院会員にアンケートを送付し49病院からの回答を得ました。以下、概要を報告いたします。
病床確保、人材派遣に協力するには人員の問題、構造上の問題がネックに
アンケート結果では、東京都からの「更なる病床確保」や「宿泊施設や酸素ステーション等への人材派遣」への協力要請について、「人員に問題がある」を9割以上、「構造上の問題がある」を8割の病院が挙げている。人員については、「感染対策に習熟した医師の不足」(27病院)や「感染症に習熟した看護師の不足」(30病院)、「看護師を配置転換することが困難」(31病院)を挙げている病院が目立った。構造上の問題については「ゾーニングが困難」(33病院)、「新たな病床確保が困難」(24病院)が多く挙げられた。
建物の構造は言うまでもないが、地域の役割に応じた現在の人員体制から、新型コロナウイルス感染症の体制に切り替えることは、ある程度の要件がそろわない限り困難であることが明らかとなった。
地域医療体制や医療連携が課題に
約4割の病院が「地域医療体制」や「医療連携」についての課題を挙げている。地域医療体制については、「(新型コロナウイルス感染症以外の)一般救急患者の受け入れが困難になる恐れ」(17病院)が多く、医療連携については、「重症化した際の転院先が確保できない」(17病院)との意見が多く挙げられた。新型コロナウイルス感染症入院受入医療機関の確保だけでなく、回復期支援病院が安心して受け入れを行うためにも重症者を受け入れる病院の確保が課題となる。
通常医療の制限について、医療連携や公的・公立病院の役割強化が求められる
都の協力要請では「不急の入院・手術の延期などの通常医療の制限」も視野に入れた上で病床確保等の協力が求められた。この要請に対し、「緊急事態宣言中に限るべきである」との設問に「そう思う」が59%、「どちらともいえない」が35%、「思わない」6%との結果であった。「そう思う」以外の回答には緊急事態宣言期間以外でも新型コロナウイルス感染が収束してない現状では、平時とは異なる感染症対応が迫られている病院の実情を反映しての回答ではないかと推察される。
新型コロナウイルス感染症の診療および通常医療に関して「医療連携が必要」との意見が6割以上を占めた。現在の医療体制には医療連携が不可欠で、コロナ禍においても、それぞれの病院が機能に応じた役割を果たすことの重要性が改めて明確になった。
「公的・公立病院を中心にコロナ専門病院を集中し、スタッフを養成すべき」との意見が約6割あった。実際、第3波では、救急搬送された患者が陽性だった場合、新型コロナウイルス感染症受入病院に転送するまで、すべての救急搬送の受け入れがストップする事態が報告された。急遽、都知事の指揮下で、都立・公社3病院がコロナ専門病床となった途端、医療連携の流れができ、医療崩壊を回避するに至った。民間病院が新型コロナウイルス感染症の入院患者を受け入れるには、構造的・人員的問題が障壁となる。新型コロナウイルスのような新興感染症によるパンデミックや災害医療、テロ対策等に対応するには常日頃からの職員の養成や訓練が必要となるが、それらは公的・公立病院でないと不可能である。
一般患者の生命予後にも影響
アンケートでは通常医療の制限について、「一般患者の生命予後」に「重大な影響がある」「医療連携等でも影響はさけられない」との回答が9割あった。本来、生存権を保障し医療体制整備に責任を負うべき、厚労省と東京都が連名で通常医療の制限を打ち出したことは、医療崩壊と言わざるを得ない。
国および東京都はコロナ禍においてもなお、地域医療構想による病床再編や、公的・公立病院の統廃合の方針を取り続けている。社会保障抑制政策の下、診療報酬はこの20年間で10%以上引き下げられ日本の医療は医師・看護師をはじめとする医療従事者の自己犠牲で成り立っていたが、コロナ禍で抑制政策の破綻が白日の下にさらされた。
国、東京都は今こそ医療・社会保障充実の方向に舵をきるとともに、「第6波」に向けて直ちに公的・公立病院の役割を発揮し、医療体制整備に全力を尽くすことが求められる。