[視点]沖縄の米軍基地と新型コロナウイルス感染症

公開日 2022年03月02日

沖縄の米軍基地と新型コロナウイルス感染症

                     

沖縄県保険医協会理事 仲里  尚実

 

米軍基地から「染み出した」オミクロン株

 毎日のマスコミ報道で驚異的なオミクロン株コロナの数字が発表される。私のこの小文の数字は10日後の2月5日には全く変わっているだろう。

  新型コロナの第5波が全国的に2021年10月から鎮静化してきて、沖縄県でも11月になると1桁の報告が続いていた。私自身はこの2カ月間で3回“準”濃厚接触者として数日間の出勤自粛を求められたが、幸い早めに復帰できた。

 しかしこの時期、米国・イギリス・インド、その他の世界ではオミクロン株の爆発的感染流行で、米国では1日100万人感染という、とてつもない数字が公表された。

  沖縄の年末の平穏は米軍の発表で一気に崩れた。12月17日、在沖海兵隊はキャンプ・ハンセン(※)(「反戦」ではない。念のため)に到着した兵士に大規模なクラスターが発生したと公表した。ほぼ同時期に日本人同基地従業員1人がオミクロン株に感染した。

  沖縄に配置される部隊は米国から嘉手納基地に運ばれたあと各基地に配属される。2021年12月は世界的な海兵隊の移動時期に重なり、山口県岩国基地への移動も同時期であった。

  オミクロン株は当然基地内の日本人従業員にも感染し、そして基地周辺県民に広がっていった。今回の第6波の初期は沖縄本島中北部での感染者が多かった。

  基地内のクラスター発生後も米軍は民間地への外出を禁止せず、クリスマス前後の期間、多数の米兵が基地周辺の飲食街に繰り出している。しかもマスクなしで。

  さらにこの間、最悪の事実が明らかになった。2021年9月以来、米軍は日本(嘉手納と岩国基地)に入出国する米兵の入国前・出国前PCR検査を免除していたのだ(沖縄の米軍はPCRか抗原検査かあきらかにしていない)。欧州諸国や韓国などの米国の同盟国では当該国の検疫法が適用され、入出国時にコロナの検査を実施しているが、日米地位協定による「合意事項」で日本の検疫法は米軍に適用されない。玉城デニー沖縄県知事の抗議・要請で12月30日から、“遅きに失した”新型コロナ検査が再開された。

  成田空港などで日本に入国する外国人は2週間ホテルなどでの滞在を強いられていたが、日本国内のすべての米軍基地では到着した軍人軍属の民間地への外出は自由であった。外出が「必要不可欠な場合を除き」制限されたのは1月10日、コロナ感染予防対策としては全くのザル状態であった。

米国屈従続ける日本政府

 12月第2週まで1桁で推移していた沖縄県のコロナ感染者は「米軍基地から染み出した」(玉城デニー知事)オミクロン株の急速な感染拡大で第3週後半には2桁となり、年明けの3日には3桁、7日には4桁、13日は1814人と、第5波とは全く異なる急峻な剣山グラフを作っている。東京都が沖縄県の人口140万人の約10倍であるので、東京に当てはめれば1万8千人である。1月24日、沖縄の感染者は611人で減少傾向にあるが、東京でも大規模な感染拡大が1月末時点で進行中だ。

 幸いオミクロン株の重症化は従来のデルタ株の8分の1との分析があるが、医療現場の逼迫度は第5波以上になっている。その感染力の強さゆえ医療従事者、施設職員に感染が多発し、医療・介護を支える人的資源の不足が著しい。沖縄のコロナ受け入れ重点医療機関の殆どが一般受診制限、紹介制限をしている。もちろん東京も同じと報道されている。

 日本政府は「新しいオミクロン株が米軍基地由来と断定するのは困難」と、米国の顔色を伺うコメントしか出さなかったが、米軍岩国基地を抱える山口・広島両県で新型コロナが1月に急拡大、基地内のクラスターも発表されたことから「(急激な感染拡大の)要因の一つとして否定できない」に変わった。それでも日本の検疫法適用を要求はせず「(地位協定の改定も)強固な日米同盟の維持のため…」と米国屈従姿勢を変えない。今や日本に駐留するすべての米軍基地周辺でオミクロン株が「染み出し続けて」いる。

新型コロナが炙り出した沖縄の米軍基地問題と差別

 在沖縄米軍の軍人・軍属、家族の人数は4万7300人(2011年を最後に発表はない)、仮に5万人として、県民の28分の1である。

 1月20日、林芳正外相は在日米軍施設区域での新型コロナウイルス感染者数は(2021年12月15日以降)19日現在6350人で、このうち在沖縄米軍は4141人だと説明した。沖縄県は1月20日、2021年12月15日以降の感染者数は9基地で計5千人を超えたと発表。

 単純に単位人口あたりにしたら沖縄県民の28倍である。10万人当たりだと何人か…計算するのが嫌になる。

 米軍占領下の1964年(私の高校1年時)、沖縄で風疹が大流行し、感染した妊婦から400人以上の聴覚障害児が生まれた。当時米国で風疹が大流行し、沖縄に送られてきた米兵から感染が広がったとの見方が強い。沖縄の米軍基地は騒音だけでなく、環境汚染(PFAS・PFOS他)・事件事故をまき散らす。基地周辺では感染予防の換気のために窓を開ければ戦闘機やオスプレイの騒音が入りこむ。沖縄県の経済発展を阻む強奪されたままの広大な米軍基地(本島に限れば約10%)の有刺鉄線フェンス上端の「返し」は民間地に折れ曲がり、一般の刑務所とは反対方向だ。「基地の中に沖縄がある」証左である。

  コロナ禍でこの2年間「辺野古」「沖縄の米軍基地」は忘れ去られていたが、コロナがまた炙り出した。この沖縄の状況に対し、全国民放の夜のニュース番組で高名なキャスターが「米軍基地と共存しなければならない沖縄では…」と語った。また別の番組のコメンテーターは「(反基地運動に利用するために)…コロナがもっと拡大し、死者が多くなれば…いいと思っている…」と言い放った。

 無意識の、あるいは露骨な沖縄差別であるが、丁寧に一つ一つ反論し批判していくしかない。名護市長選挙では明確に「辺野古新基地反対」を訴えた候補が敗れた。しかし「国と県の争いの推移を見守る」と語った当選現職市長への投票者の3分の1が辺野古新基地反対である。過去を振り返れば歴史の“揺れ”は何回も繰り返されている。将来を見据え、ぶれずに発信を続けたい。

※「キャンプ・ハンセン」は沖縄本島北部、名護市の南に隣接した金武町に主施設があり、周囲の山林部に実弾射撃訓練場がある。民間地に銃弾が流れる事故も頻回に起こっている。軍刑務所もあり、極東アジアの軍関係者の短期間の監禁施設となっている。正月明け、所属の兵士2人が続いて飲酒運転で県警に逮捕された。


 

(『東京保険医新聞』2022年2月5日号掲載)