[視点]「乳腺外科医裁判 最高裁判決を受けて」

公開日 2022年04月09日

乳腺外科医裁判 最高裁判決を受けて

                乳腺外科医裁判弁護団/駒込たつき法律事務所 弁護士 水谷 渉

 

 2022年2月18日、最高裁は高等裁判所の有罪判決を否定し、高等裁判所に差し戻して審理を命じる判決を言い渡しました(経過については、表1をご参照ください)。 

 最高裁は、判決に先立って口頭弁論を開いたところから、有罪の結論が否定されることは予想されていました。しかし、最高裁自らが無罪を言い渡す可能性(裁判終了)と、高裁に差し戻す可能性(裁判続行)の双方が存在しており、今回は後者の判断となりました。

 最高裁判決では、①医学的にみて女性がせん妄による幻覚を見ている可能性があるかどうかの論点について、高等裁判所の検察側精神科医の証言を「医学的に一般的なものではないことが相当程度うかがわれる」と否定しました。他方、②科捜研が実施したDNA定量検査については、「本件定量検査の結果の信頼性にはなお不明確な部分が残っているといわざるを得ない」として、この点についての審理を高裁に命じました(各判決については表2をご参照ください)。

 最高裁が、DNA定量値の信頼性が不明確と考えているのであれば、最高裁自らが無罪判決をすべきであったと思いますが、そのような判断にならなかったのは非常に残念です。

 最高裁判決を受けて、あらたに高等裁判所で差戻審が始まります。差戻審の高等裁判所で無罪が確定することを願っていますが、検察が不服を唱えて上告すれば、さらに最高裁で審理が続くことになります。

 全く身に覚えのない冤罪であっても、裁判で当事者となることの不利益は非常に大きいのが実際です。精神的な負担だけでなく、多額の金銭負担(弁護士費用、鑑定費用、実験費用など)が本人と家族にかかってきます。

 本件について、弁護人のみならず、せん妄について正しい理解と経験のある多くの医療従事者が冤罪であることを確信しており、早期に無罪が確定することを願っています。


(『東京保険医新聞』2022年3月15日号掲載)