[視点]オンライン資格確認義務化 保険証廃止の問題点

公開日 2022年08月05日

オンライン資格確認義務化 保険証廃止の問題点

                     

東京合同法律事務所 弁護士  瀬川 宏貴

 

「骨太方針」2022

 2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)は、①オンライン資格確認の導入を2023年4月から保険医療機関・薬局に原則として義務付けること、②システム導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直すこと、③2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止(ただし加入者から申請があれば保険証を交付する)をめざすこと、を明記しました。

オンライン資格確認義務化の問題点

 オンライン資格確認導入の義務化は、医療機関にとっては、設備設置の経済的な負担や事務の煩雑化、窓口での混乱などの問題があると考えられますが、患者の個人情報の観点からいうと、次のような問題があります。

 オンライン資格確認は、医療機関・薬局が、社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会が設置するオンライン資格確認等システムから患者の資格情報を入手するというものですが(下図参照)、その際に患者の本人確認に用いられるのが個人番号カードのICチップに内蔵されている電子証明書機能になります。

 この電子証明書の発行業務を行うのが、地方公共団体情報システム機構(J―LIS)という機関です。J―LISは、住基ネットの全国センターとしての全住民の基本4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を保有する機関であり、従前、全国の地方公共団体が共同して運営する法人でしたが、昨年成立したデジタル改革関連法により、国と地方公共団体が共同して管理運営する法人に改組されました。

 オンライン資格確認を導入することは、このような、全住民の基本情報4情報を保有し、国が共管する機関と、医療機関・薬局とが、オンライン資格確認システムを通じて接続することを意味します。オンライン資格確認を導入したとしても、直ちに医療機関・薬局が保有する個人情報がJ―LISに吸い上げられるといったことにはなりませんが、将来的に患者の医療情報が利活用されることにつながっていくのではないかという懸念があります。

保険証の原則廃止について

 番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)において、個人番号カードは、住民の申請により交付するものとされており(番号法17条1項)、カードの取得は任意であると明記されています。

 国民皆保険制を採るわが国において、保険証を原則廃止することは、本来任意であるはずの個人番号カードの取得を事実上強制するものであり、番号法に反するものというべきです。

個人番号カードの利用拡大の問題点

 2022年6月現在で、個人番号カードの取得率は、全住民の約44・7%となっています。

 政府は、昨年末に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において、「マイナンバーカードの徹底的な利用を推進する」としており、2022年6月30日からは、マイナポイントの第2弾が始まり、カードを取得した人に5000円、カードと保険証を一体化した人に7500円、公的給付の受け取り口座にマイナンバーを紐づけた人に7500円のポイントを配るとしています。また総務大臣が、各自治体における個人番号カードの普及率を地方交付税の算定に反映させると発言するなど、なりふり構わない姿勢で住民に個人番号カードの取得をさせようとしています。オンライン資格確認の義務化と保険証の原則廃止も、その一環といえます。

 個人番号カードが普及し、その利用が拡大していけば、個人番号カードの電子証明書の発行番号と様々な個人情報が紐づけられ、データベース化されていくことが考えられます。すなわち、個人番号カードの電子証明書の発行番号は、マイナンバーとは異なり生涯不変の番号ではないものの、更新された新旧一連のものが一元的に管理され、マイナンバーと同様に個人識別符号として機能する番号です。民間事業者が電子証明書の発行番号と紐付けたデータベースを構築することは法律で制限されておらず、国によって推奨されています。

 したがって、個人番号カードの「徹底的な利用」がされることになれば、民間事業者の構築するデータベースに、個人が個人番号カードを使用した履歴が蓄積されていくことになり、その情報の利活用が図られることが考えられます。


 

(『東京保険医新聞』2022年7月25日号掲載)