救急医療シンポジウム 病院救急車活用で意見交換

公開日 2022年10月04日

有賀 徹 氏
関 裕 氏
千葉 清隆 氏
前田 透 氏

 

 病院有床診部は7月16日、第12回救急医療シンポジウム「地域医療構想と病院救急車の活用について―課題と今後の展望―」を開催した。

 シンポジストは、①有賀徹氏(独立行政法人労働者健康安全機構理事長)、②関裕氏(南多摩病院副院長)、③千葉清隆氏(東京都福祉保健局医療政策部救急災害医療課長)、④前田透氏(東京消防庁救急部救急医務課長)の4氏。

 会場とZoomで医師、看護師等16人が参加し、細田悟理事の司会進行で、救急医療と地域医療について意見を交わした。

 冒頭、水山和之病院有床診部長は「新型コロナウイルス感染症第5波の際には、国および東京都は医療機関に通常医療の制限も視野に入れた病床確保を要請した。第6波の際には重症患者数は減少したが、東京ルール事案が増加した。本日は、今後どのような医療提供体制が望ましいのかを考えたい」と挨拶した。

地域密着型病院が地域のリーダーシップを

 有賀氏は、現在65歳以上の人口割合が約3割である超高齢社会の中で、高齢者単身世帯や非正規雇用の拡大により収入の少ない世帯が増加しているとし、災害や新型コロナ感染による死者数は高齢者が多数を占めていると指摘した。退院の許可が出た場合でも社会的理由により自宅療養できない高齢者が3割以上存在していること等、現状について説明した。

 超高齢社会で災害・感染症に強い地域を作るために、二次医療圏域の災害拠点病院と地域包括ケア圏域の地域密着型病院・診療所が連携することの重要性を訴えた。地域密着型病院が地域におけるリーダーシップを発揮し、診療所・介護事業所等の効果的な連携を推進することおよび防災力向上への支援を行うことが必要であり、病院救急車の活用はその一助になるだろうと述べた。

高齢者医療のネットワーク構築には病院救急車が必要

 関氏は、八王子市在宅療養患者搬送支援事業として、自院で事業運営に携わっている病院救急車を利用した地域高齢者搬送システムについて報告した。

 病院救急車の活用件数の増加に伴い、消防救急車出動件数が減少することを示し、消防救急車の負担が軽減されると述べた。

 他施設や診療所、訪問診療に携わる多くの医療者との関わりが増えることが、病院で働く救急救命士のモチベーションの一つであるとともに、地域高齢者医療のネットワーク構築に不可欠であると強調した。

 財政面では、補助金を活用しても赤字となること等、課題を示した。

コロナ禍の救急医療の課題東京ルール事案の高止まり

 千葉氏は、病院救急車の取り組みを「在宅医療」に位置付け、東京都が区市町村を支援しているとし、現在、約100台の病院救急車が上り搬送、下り搬送ともに活用されていると述べた。コロナ禍では東京都全体の救急搬送件数は減少した一方、東京ルール事案が高止まり(2019年は25・4件/日、2021年10~12月は50・5件/日、2022年6月は77・3件/日)していると報告した。

 感染対策を実施することにより救急患者の受け入れに通常より多くの時間がかかるため、受け入れ可能数が減少していること、救急患者の検査陰性が確認できるまで搬送を受け入れられないこと、看護師等がコロナ陽性もしくは濃厚接触者となることでマンパワーが低下していること等を指摘した。今後、消防救急車と病院救急車との役割分担の一層の推進が必要であると述べ、医療者とともに改善を図っていきたいと語った。

コロナ禍の救急出動では救急活動時間が増加

 前田氏は、コロナ禍での救急隊の出動について報告した。

 第5波、第6波の際には、自宅療養中の患者からの救急要請件数が増加し、最大で一日341件の要請があった。容態の悪化や不安を感じた患者は、最初は保健所や相談窓口に連絡するが、連絡がつかないときには119番通報をするためだ。通報を受けた場合は救急隊が保健所に連絡し、搬送の判断を求める。保健所との調整、感染防止衣の着脱や車内消毒も必要となり、救急活動時間が増加(2019年は89分29秒、2020年は92分24秒、2021年は101分46秒)する中、第5波の際に保健所との調整なく搬送を判断できる基準が策定された。

 緊急搬送先としての都立・公社病院の存在は大きく、都立・公社病院で受け入れられない場合には搬送先の選定が困難だったこと、第5波では酸素投与が必要な中等症Ⅱの患者からの救急要請が多かったと報告した。

 参加者からの「コロナ患者を受け入れたいが、構造や人員の問題から、院内での感染対策が困難だ。何かいい方策はないか」という質問に対し、有賀氏は「コロナ患者は自治体病院で引き受け、非コロナ患者は他の病院で受け入れる等、役割分担が必要だ」と述べた。

 また、フロアからは「保険医療機関の救急救命士が、医師の指示に基づき現場に赴いて必要な処置等を行った場合の評価が救急救命管理料500点に限られている。医療逼迫を乗り越えるための最初の砦が救急医療であり、まずは各病院が有する救急救命士を適切に評価する必要がある」との意見も出た。

(『東京保険医新聞』2022年9月5日号掲載)