[視点]コロナ禍における生活困窮者支援と課題

公開日 2022年11月04日

コロナ禍における生活困窮者支援と課題

                      

つくろい東京ファンド 小林 美穂子

 

コロナ禍で行き場を失ったネットカフェ難民

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年春、私はそれまで火曜と木曜に営業していたカフェ潮の路を閉じた。店内は狭く、「密が売り」だった上に、常連客には高齢者をはじめ、持病をお持ちの方がとても多かったからだ。

 4月、緊急事態宣言に伴いネットカフェやファストフード店が営業を自粛した。都内に4000人(2017年東京都調べ)いると言われているネットカフェ生活者が行き場を失う。

 つくろい東京ファンドでは緊急で相談のメールフォームを作成、拡散したところ、4月と5月だけで170件の相談が舞い込んだ。相談者たちと待ち合わせ場所を決め、人通りが絶えてしんとした東京の町を、有志の支援メンバーらが駆けつけ、宿を提供し、制度に繋げ、アパート入居まで伴走した。

 2020年6月以降は、反貧困ネットワークを中心とする「新型コロナ災害緊急アクション」が緊急支援を継続。現在まで約2千件のSOSが寄せられている。

 連日、2件、3件と相談対応をし、あっちの自治体、こっちの自治体、時には都外まで生活保護の申請同行をし、アパート探しや家具什器の購入まで付き合う。ネットカフェ生活者には頼れる親族がいない場合がほとんどなので、入居契約時には緊急連絡先にもなる。アパート入居の後も不自由が続く場合は、その後もサポートを続ける。

コロナ禍における生活困窮者の実態

 ネットカフェやファストフード店で寝泊まりしていた人たちは、コロナ前から生活保護の要件を満たしている人たちだった。それでも自力で這うように生きてきたのが、コロナで詰んだ。

 ネットカフェで暮らす「住居喪失者等」の半分は20代、30代の若者で構成されており、路上生活者が60代であるのと比べて、若い。日雇いやアルバイトなどの不安定就労に従事する彼らの平均収入は11・4万円。頑張って働いても、アパートの初期費用を貯蓄することは困難だ。住所がないと、安定した職に就くことも不可能だ。

 ネットカフェ生活をする若者たちに加え、コロナ禍によって失職したり、シフト減で生活困窮した人々の職種は幅広かった。リーマンショック時には工場勤務の男性が多かったのに比べると、居酒屋の店員、カフェの雇われ店長、性風俗産業従事者、ホテル従業員、 タクシー運転手、学習塾講師、マッサージ師、ジムやヨガのインストラクター、デイサービス(通所介護)の職員、ミュージシャン、伝統芸能の担い手、イベントの裏方、理容師、美容師、スーパーの試食販売員、外国人技能実習生、留学生と多岐に渡り、女性の割合も増えた。

「公助」はどこに 行政の場当たり的対応

 コロナ禍で生活困窮した人たちに対して、行政は社会福祉協議会を窓口にした特例貸付を行い、場当たり的に延長に延長を重ねた。しかし、最初から回収が困難であることを知りつつ貸し続けることで、生活困窮者に借金を背負わせる結果になった。この貸付が生活保護制度への実質的な防波堤になっていたことは偶然ではないと私は思っている。

 誰もが先の見えない不安な毎日を過ごしていた最中、当時の菅義偉首相は、「自助、共助、公助、そして絆」と言い放った。首相は菅さんから岸田さんへと変わったが、自助も共助も限界はとうに越えている中、公助は相変わらず狸寝入りを続けている。

国籍や在留資格での命の線引き 許されない

 コロナ禍で最も脆弱な立場に置かれている人々も顕在化した。仮放免中の外国人たちだ。

 様々な理由により母国に帰れず、在留資格を失った人たちは収容所内でクラスターが発生したことから「仮放免」という身分で施設を出ることになった。しかし、仮放免者は県境を越える行動も制限されている上に、一切の労働が禁じられている。健康保険の加入もできず、あらゆる社会保障へのアクセスも閉ざされている。

 病院を受診すれば、100%どころかさらに2倍、3倍の自己負担を迫られることもあるため、医療控えが起こる。我慢に我慢を重ねた結果、手遅れになって亡くなったケースも出ている。

 こうした仮放免者の命は、一部の無料低額診療事業を行う良心的な医療機関と、市民からの寄付によって支えられているが、トリアージが行われているほどに厳しい状況にある。使命感だけで引き受けてくれる医療機関は、その経営が圧迫される。

 国籍や在留資格の有無で命の線引きが行われてはならない。死んでも「仕方がない」命なんて、あってはならないはずだ。

 国は、無料低額診療事業を行う医療機関を補助して、経済格差によって医療を受けられない人を減らすべきであるし、医療機関は経済的に困窮する相手に多額の医療費を請求すべきではない。

 つくろい東京ファンドのシェルターには、家賃が払えずに行き場を失った仮放免者などの外国人が7人滞在している。入管施設内で受けた暴力や祖国でのトラウマ、逃げた先の日本でも収容され、収容が解かれても先が見えない。生活費もない、家賃も払えない、そして、ほとんど全員が医療を必要としている。

 コロナ禍も2年半が過ぎた。自助も共助も限界はとっくに越えている。


 

(『東京保険医新聞』2022年10月25日号掲載)