コロナ時代の医学教育を考える

公開日 2022年12月09日

会場の様子(11月3日、セミナールーム)
青柳有紀氏
岩田健太郎氏

 勤務医委員会は11月3日、「コロナ時代の医学教育」講演会を開催した。会員以外にも広く参加を呼びかけ、当日は会場11人、Zoom35人の計46人が参加した。

 講師には青柳有紀氏(ニュージーランド・ダニーデン病院・内科副部長)と岩田健太郎氏(神戸大学大学院医学研究科教授)を招いた。

医学教育の目的を明確に

 青柳氏の講演のタイトルは、「The End of Medical Education」。「End」には「終焉」の他に「目的」という意味もある。青柳氏は、文系大学を卒業した後、国連教育科学文化機関(UNESCO)に就職し、当時HIVが猛威を振るっていたアフリカで働いた経験から、医療と教育は平等に人間に与えられるべきだという考えに至った。

 HIVを診られる感染症医になりたいと思い医学部に学士編入学し、現在はニュージーランドで診療している。ニュージーランドを選んだ理由は、世界の国々を見渡して一番医療と教育を平等に与えようと努力している国と感じたためだと述べた。

 ニュージーランドはコロナ禍において、世界で最も厳しいロックダウンを行い、第5波までは流行を抑え込んだ。しかし、なぜ厳しいロックダウンを行ったのか、その理由までは知られていない。根本的な理由は、有効な治療法やワクチンが無い状況では先住民の人達などに負荷がかかりすぎるというもので、医療の原則・目的がはっきりしている。「日本の医学部が掲げている教育理念を読むと、単なる手段なのではないかという部分も見受けられる。日本の医学教育でも目的と手段を取り違えてはならない」と述べた。

現代に求められるのは問いを立て考え続ける力

 次に岩田氏が「Coronaの時代の医学教育」と題し講演した。コロナの時代に求められる医師像は変化したのか、という問いに対し、岩田氏は「実はほとんど変わっていないのではないか」という考えを示した。

 旧来の医学部教育は医学的知識を全て覚える(暗記する)ことを基本としていた。しかし医療技術の進歩とともに、覚えなければいけない知識量は飛躍的に増加した。1950年段階の医学知識が倍加するまで約50年かかったが、2020年代においては倍加するまでわずか2カ月と言われている。

 現在は知識の多寡で勝負する時代ではない。大事なのは「問い」を立てること、考え続けることが出来るかどうかであり、日々の研鑽が必要となる。また、母国語で医学を学べる日本ではあるが、最先端の医療・医学知識を得るためには英語のマスターが欠かせないと述べた。

 質疑応答では、「教育を構成する要素の中で効率性を推進させていくべき部分と、むしろ効率を目的とすべきではなく人手や時間をじっくりかけた方がよい部分はどのようなものがあるか」「日本の科学水準が低下してしまった理由は何か」「医療システムの不合理な部分を変えていくにはどうすれば良いか」などの質問が参加者から出され、活発に意見交換が行われた。

(『東京保険医新聞』2022年11月25日号掲載)