[視点]COP27とGXの問題

公開日 2023年03月10日

COP27とGXの問題

                      

国際環境NGO FoE Japan 深草  亜悠美

 2022年11月6日から18日まで、エジプトのシャルム・エル・シェイクで国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催された。

 気候危機が加速している。2022年の夏には国土の三分の一もが水没するような水害がパキスタンを襲った。コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻も、発展途上国にさらなる債務や貧困をもたらす原因となっている。

 日本政府は今年G7の議長国であるが、気候変動対策でリーダーシップを示せるのだろうか。本稿では、COPの成果とともに、岸田政権が「脱炭素政策」として掲げる「GX(グリーントランスフォーメーション)戦略」の問題についてみていく。

「損失と被害」基金設立に合意

 今回のCOPでは、気候変動による取り返しのつかない影響を途上国に補償する「損失と被害(ロスアンドダメージ)」の基金の設立が合意された。これは歴史的な一歩ではあるが、課題は山積している。

 これまで気候変動対策といえば、温室効果ガスの排出を抑える「緩和」、すでに生じている変化に対応するための「適応」が二本柱であった。しかし気候変動の影響に対し特に脆弱で、すでに適応の限界を超えた損失や被害を被っている途上国は、長年損失と被害に対する対応を先進国に対して求めてきた。これまでの国際交渉において、途上国が具体的な資金支援の議論をしたい一方で、先進国がそれに反対していた。

 そのような背景も踏まえると、COP27で損失と被害に関する基金の立ち上げが合意されたことは歴史的な一歩といえる。しかし立ち上げが合意されたものの、誰が資金を拠出するのかは決まっておらず、中身は空のままだ。先進国が温室効果ガスを大量に排出してきたことにより現在の気候変動が生じているという歴史的責任を背景に、先進国には途上国に対する資金拠出の義務があるにも関わらず、先進国は新興国にも拠出させるよう求める動きを活発化させている。損失と被害に関する基金をどのように運営していくのか、議論は今後も続く。

脱化石燃料の議論は進んだのか

 気候変動が進めば、「損失と被害」がさらに広がる。気候変動を解決していくためには、気候変動の一番大きな原因である化石燃料への依存から脱却しなければならない。

 パリ協定に掲げられている1・5℃目標達成のためには、温室効果ガスの排出量が大きな石炭火力発電所を、先進国は2030年までに、それ以外の国も2040年までに廃止する必要がある。また国際エネルギー機関(IEA)も、新規の炭鉱開発やガス・石油の上流開発を拡大することは、2050年ネットゼロ達成への道筋と整合しないことを示している。

 2022年11月にアメリカのNGOオイルチェンジインターナショナルが発表したレポートによれば、G20諸国やMDBs(多国籍開発金融機関)は、2019年から2021年の間に、年間550億米ドルもの資金を石油、ガス、石炭事業に融資していた。先進国は2020年までに気候資金を年間100億米ドルに引き上げる約束になっていたが、まだこの目標は達成されていない一方で、気候変動を加速させる化石燃料事業には多額の資金が費やされている。

 また2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことを受け、ロシア産の化石燃料への依存からの脱却を図るため、欧米諸国などが省エネや再生可能エネルギー開発へと舵を切っているが、アフリカなどにおける新たな化石燃料開発にも関心を示しているのも事実だ。

 前回のCOPでは、史上初めて決定文書に石炭火力の縮小や化石燃料補助金の廃止といった文言が盛り込まれ、今回のCOPで化石燃料廃止に向けた取り組みの強化が行われることが期待された。しかし、この部分に関しては前回と同様の文言が採択されただけで、前進はなかった。

GXはグリーンウォッシュ

 国際的な気候変動対策強化の流れを受け、日本政府も2020年の菅政権下で2050年までの排出実質ゼロを表明している。実質ゼロもしくはネットゼロとは、ある一定期間の人為的排出と吸収の量のバランスが取れた状況を指すが、多くの国や企業が大規模植林を想定した吸収量増大や将来の技術発展に頼った策を打ち出しており、科学的にも誤った根拠に基づいているネットゼロを掲げているのが実情だ。

 これはGXにも言える。なぜならば「GX(グリーントランスフォーメーション)」の名の下に進められているのは原発推進や化石燃料由来のアンモニアや水素事業、コストが高く技術的にも商業的にも確立していないCCS(二酸化炭素回収・貯留)等だからだ。

 2022年12月22日、岸田首相が議長を務めるGX実行会議で、原発の再稼働、運転期間の実質延長、次世代革新炉の開発・建設などの原発推進を含む「GX実現に向けた基本方針」が了承され、その後2023年2月10日に閣議決定された。今回策定されたGX基本方針は、再エネや省エネなども含んでいるが、原発推進の内容がひときわ目立つものとなっている。GXは「ロシアによるウクライナ侵略が発生し、世界のエネルギー情勢は一変した」とし、原発が「エネルギー価格の上昇」「電力需給ひっ迫」の解決策になるかのような書きぶりで、「エネルギー安全保障上、原発は必要」というロジックだ。

 しかし、この10年、世界的に再生可能エネルギーのコストが下がる一方、原発のコストは上昇し続けている。日本においても、再稼働のための安全対策費、維持費が巨額だ。原発の発電コストは見えている部分のみならず、核廃棄物の処理や安全規制のための行政コストなど見えないコストも莫大だ。また、脱炭素に必要な脱化石燃料方針は示されず、CCSや水素・アンモニア・バイオマス等の混焼で化石燃料インフラを延命させることも盛り込まれている。GXは、全くグリーンではない。

 日本国内でも気候危機の影響が深刻になっており、原発や気候変動に対する国民の関心も高い。大筋が決定されたあとにGX方針に関するパブリックコメントが実施され、説明会が何カ所かで開催されたが、国民の意見を十分に聞いているとは言い難いプロセスで政策決定が進められている。政府の進めるGXは脱炭素化を遅らせるどころか、民主主義を損なうことにすらなるのではないだろうか。

(『東京保険医新聞』2023年3月5日号掲載)