[視点]この国は福島原発事故から何を学んだのか いつまで国民を騙し続けるのか

公開日 2023年03月24日

この国は福島原発事故から何を学んだのか
いつまで国民を騙し続けるのか

原発避難者群馬訴訟(元)原告 丹治  杉江

 

 原発事故から12年。日本史上最大の放射能公害事件は無辜の民の人生を狂わせ、戦後最大の国内難民を生み、今も被災地域、多くの被災者に深い苦悩と分断をもたらし続けている。

 人間には不安や苦しみを回避するため「忘れる」という能力が備わっているが、それを利用したのは被災者ではなく権力側だった。「福島復興」「原発事故終息」さらに「電力不足や電気代の高騰解消=原発」という原子力ムラの台本が信じられないほど上手く演出され、多くの国民はすっかり騙されてしまっている。そしてまた原発「新安全神話」が日本中を席捲し始めた。

 2023年2月、朝日新聞社が全国世論調査(電話)を実施し、原子力発電所についての意識を尋ねた。原発の運転再開に対する賛否は、東日本大震災の後、おおむね「賛成」が3割前後、「反対」が5~6割で推移してきたが、今回初めて運転再開について「賛成」が51%で、「反対」は42%。勿論、国民投票ではないものの、国民の意志の傾向は判断できる。が、なぜ? と、私は悔しくて歯痒くてならない。

原発事故損害賠償訴訟10年闘って

 事故後、4つの事故調査委員会が立ち上がり、いずれも福島原発事故は「事前の事故の防止対策や事故後の被害拡大防止策について問題点が複合的に存在した」「この事故は人災の性格を色濃く帯びている」、国会事故調は「今回の事故は明らかに『自然災害』ではなく『人災』である」としている。にもかかわらず、過酷な避難生活や放射能と隣合わせの生活を余儀なくしている被災者は、人災の当事者である政府から「自己責任」「福島で良かった」「最後は金目でしょ」などの暴言を浴びせられてきた。

 私は10年の避難者損害賠償群馬訴訟原告として地裁・高裁・最高裁で、避難指示地域からの筆舌に尽くしがたい避難の苦難と、勝手に線引きされ切り捨てられた「自主避難」(私は自力避難と言っている)の正当性と避難の権利を証言した。

 国側は東京高裁控訴審の第8準備書面で「……避難継続の相当性を肯定して損害発生を認めることは居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となる」から「容認できない」と主張した。避難の必要有無の判断は問答無用で国に従えといわんばかりの暴論だ。

 そして世界中を震撼させたあの事故の責任について、最高裁においても2022年6月17日『国の責任なし』と判決を下した。勝利の「旗出し」を準備していた私は悔しくて泣き崩れた。あの時の怒り、虚しさ、理不尽さは生涯忘れない。後続30余の損害賠償訴訟が最高裁判決を覆してくれるものと信じ、傍聴支援を続けている。

福島事故は終わらない

 日本政府・財界は「司法」まで抱き込み原発事故の責任を曖昧にしたまま被災者一部を棄民にし、惨事便乗型のイノベーションコースト(国際研究都市)構想のもと、ロボットやドローン、水素など産学軍研究施設建設を進めている。

 2022年12月、岸田首相はGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、原発の再稼働、運転期間の実質延長、次世代革新炉の開発・建設などの原発回帰政策を突然決定した。いかにも地球環境、温暖化に対抗できるクリーンなイメージの名称を用いているが、実際には化石燃料に依存した既存の産業や社会構造を維持し、「原子力産業=かつての原子力ムラ」に手厚い支援を盛り込んだ内容で、「持続可能なエネルギー社会」への移行や「気候危機」への対応ではない。

 どんな革新炉であっても使用済み燃料(核のゴミ)を生み出す点は全く同じだ。ロシアのウクライナ侵略で原発が攻撃の標的とされその危険性がむき出しになった。原発は破壊されれば多数の人間、生物すべての生命の危機に直結する。「国民のいのちを守る」と大軍拡路線に舵を切った政府が同時に原発再稼働とは正気の沙汰ではない。

 さらに腹立たしいことに、電力の安定供給を口実に、国民を欺くため膨大な税金を投入し「エネルギーミックス」「安全性を保障した汚染水海洋放出」などTVコマーシャルをたれ流している。復興予算の軍事費への流用は国民に対する裏切り行為だ。そもそも福島原発事故現場の収束は危機的状況のままなのだ。

①デブリ問題…メルトダウンを起こした1、3号機の全量推定880tを取り出せても最終処分の見通しはない。今後の28年で取り出すとしたら、毎日休みなく約80㎏ずつ取り出さなくてはならない計画だ。だが、この11年間で1gも取り出せていない。

②原子炉格納容器蓋…2022年3月、規制員会は1、3号機の格納容器上蓋(シールドプラグ)に途方もない高濃度の放射性物質が付着していることを発表した。その量は3基合計で50・1PBq∼最大70PBq(※P=ペタは1000兆倍)。3・11での拡散量の23倍以上だ。地震・津波や台風等で老化が激しい建屋がどこまで持ちこたえるか? もし、廃炉作業などで格納容器の外に拡散すれば、関東全域が避難地域となる量だ。

③廃炉に伴い発生する「原子炉建屋構造物や制御棒」などは「低レベル」L1放射性廃棄物とはいえ、かなりの高線量廃棄物だ。総量28万t、規制委員会規制基準ではすべて地下70mより深く埋めて3~400年は電力会社、その後10万年は隔離保管。これは北海道寿都町で話題の高レベル廃棄物とは別の問題である。

④喫緊の課題…2023年汚染水(ALPS処理水)海洋放出。現在129万t余。経産省のALPS(多核種除去装置)小委員会報告は、汚染水のトリチウムは健康への影響は低いと言いながらも「トリチウムの影響が出る被ばく形態は内部被ばく」であることを認めている。内部被ばくは食物連鎖を通して生物に濃縮されていく。いくら希釈しても、時間をかけて海に棄てても総量は同じだ。ましてや保管されているタンクの処理水のうち実際にはストロンチウムなどの放射性物質が基準値を上回っているものが8割に上る事が発覚している。

 処理を謳いながら実は大半が処理しきれておらず、東電はこれを「処理途上水」と言い換えた。再処理する、風評対策すると言うが、漁業者をはじめ国民の不信と不安は払拭できない。「まずいものは水に流す」のではなく、大型タンクでの長期保管やモルタル固化、遮水壁の新たな建設など別の対応策を早急に検討していただきたい。

最後に

 私たちは原発苛酷事故の歴史の証言者だ。人類の生命を脅かす「核の火」を消すまでフクシマ被災者の塗炭の苦しみを語り伝えたい。

 福島県楢葉町宝鏡寺の境内に故早川篤雄住職の半世紀の原発との闘いを伝える「伝言館」がある。その出口に貼られた短冊「這うことも出来なくなったが、手にはまだ平和を守る1票がある!」忘れない!


福島原発構内2号機前を視察する筆者。放射線量は12μSv/h

(『東京保険医新聞』2023年3月15日号掲載)