[視点]マイナンバー制度の危険な変質

公開日 2023年04月19日

マイナンバー制度の危険な変質

                      

共通番号いらないネット 原田  富弘

政府も認める名寄せの危険性

 2016年に始まったマイナンバー制度は、個人を識別特定する番号をつけて、個人情報を生涯追跡可能にし、分野を超えて照合可能にする社会基盤として作られました。 

 政府が半世紀にわたり導入を試みてきた「国民総背番号制」は、市民や関係者の抵抗を受けて挫折してきました。マイナンバー制度は挫折した省庁統一個人コード、納税者番号、社会保障番号、住基ネットなどをすべて統合した制度です。行政の効率化、公平・公正な社会、国民の利便性向上の実現を掲げて発足にこぎつけました。

 この制度には集積した個人情報の漏洩や悪用、成りすまし犯罪、国家による個人情報の一元的管理、プライバシー侵害などの危険性があることを政府は認めています(図1)。個人情報の名寄せ・結合は自由な自己決定に基づいて行動することを困難にし、権利行使を萎縮させ、民主主義の危機をも招くおそれがあるとも述べていました。そのため利用や提供を法律で限定したり、個人情報保護委員会や特定個人情報保護評価制度の新設、罰則の強化など個人情報保護措置を講じてきました。

個人情報保護を崩す番号法改正

 政府は2023年3月7日、利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大する番号法の改正案を国会に提出しました(図2)。政府は利用が3分野に限定されているのでマイナンバーを公安や自衛官募集などに利用する予定はないと国会答弁してきましたが、利用拡大の歯止めもなくなります。まず来年度開始予定の国家資格のマイナンバー管理システムを社会保障関係以外に拡大したり、外国人の在留資格管理の適正化に利用しようとしています。

 また行政機関が法律に準じていると判断すれば法改正なしに利用拡大を可能にし、情報提供ネットワークシステムで提供する事務について法律で限定列挙する別表を廃止して提供を容易にします。利活用推進のために、個人情報保護措置をなし崩しにするものです。

 最高裁は3月9日、マイナンバー違憲差止訴訟のうち3高裁を先行して合憲とする不当な判決を下しました。しかしこの判決でも法制度やシステムの内容次第では漏洩や不正利用の危険があることは認め、番号法が利用範囲を3分野に限定し、提供を制限列挙した例外事由に該当する場合のみに限定していることを合憲理由の一つと指摘しました。番号法改正案は、この最高裁判決にも反しています。

利用されないマイナンバー制度

 プライバシー侵害の心配から、マイナンバー制度は政府・財界の期待ほどには利用が進んでいません。2022年12月に経済財政諮問会議が決めた「マイナンバーの利活用拡大に向けたロードマップ」は、マイナカードの普及だけでなく情報連携もマイナポータルもあまり活用されず、所得・資産情報と社会保障・税制の連携も進んでいないことを問題視し、応能負担を徹底した社会保障のために活用を求めています。

 政府はマイナンバー制度を「社会保障個人会計」のような給付の抑制や自己負担増に使うことも、政府の姿勢によっては可能であると認めていました。

 番号法改正案では、預貯金口座へのマイナンバー付番が進まない中で、希望者だけが利用するはずの公金受取口座の登録制度に、本人が拒否しなければ行政機関が把握している口座を登録してしまう特例を新設しようとしています。

マイナカード強要のねらい

 改正案には健康保険証廃止に向けて、「資格確認書」を新設する健康保険法改正も入っています。またマイナカード普及のため乳児の顔写真の省略や、郵便局や在外公館での申請を可能にしようとしています。

 そもそもマイナカードは、マイナンバーを提供する際の成りすましを防止する本人確認や電子申請などのために作られました。マイナカード以外の本人確認手段もあり、全住民が所持する必要はなく、番号法で取得は任意となっています。にもかかわらず政府は2023年3月までに、ほぼ全住民に所持させる計画でした。

 政府の目的はマイナカードを「デジタル社会のパスポート」にして、オンライン資格確認等システムのようにマイナンバーカードに内蔵されている電子証明書の発行番号をマイナンバーの代わりに本人識別に使い、行政や民間のデータをひも付けて利活用することです。またマイナポータルを窓口に、マイナンバー制度で管理する個人情報の民間への提供を進めようとしています。番号法に規定のないこれらの利用で、「診療研究」581号で述べたような医療・教育など準公共分野の個人情報を行政と企業が利用しやすい社会を作ろうとしています。

情報自己決定権の保障を

 2兆円を投じたマイナポイントや健康保険証廃止などアメとムチで強要しても、3割の人はマイナカードを所持していません。普及方針が失敗したのは、あらゆる個人情報をひも付けるマイナンバー制度に対し、市民が自分の情報の扱われ方に不安を感じているからです。

 「社会保障・税番号大綱」ではマイナンバー制度で実現すべき社会として「自己情報をコントロールできる社会」も掲げていましたが、政府は国会や裁判で自己情報コントロールを権利として認めていません。このような姿勢がデジタル化を妨げていることを、政府は知るべきです。

(『東京保険医新聞』2023年4月15日号掲載)