二木立氏講演会 かかりつけ医の制度化「必要ないし、実現しない」

公開日 2023年06月09日

 
   講演する二木立氏

 地域医療部は5月13日、二木立氏(日本福祉大学名誉教授)を講師に、地域医療講演会「日本医療の歴史と現実を踏まえたかかりつけ医機能の強化―半年間の論争を踏まえて―」を協会セミナールームで開催し、会場とZoom合わせて40人が参加した。

「かかりつけ医の制度化」をめぐる議論

 2022年6月に閣議決定された「骨太方針2022」に「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」との一文が盛り込まれて以降、一部のメディア・研究者・医療従事者等の間では「かかりつけ医の制度化」(特に登録制、人頭払い制)がされるのではないかという懸念が広がった。しかし、二木氏によれば、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」と「かかりつけ医の制度化」は異なるものであり、「かかりつけ医の制度化」を決定した政府の公式文書はないという。

 「骨太方針2022」が示されて以降、厚生労働省の社会保障審議会ではかかりつけ医のあり方に関する議論が重ねられ、その内容が「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」(以下、医療法改正案、5月12日に成立)に反映された。同法案では、2025年4月から、医療機関に対し都道府県への「かかりつけ医機能報告」が求められることとなったが、かかりつけ医の登録制は見送られることとなり、二木氏は「『制度化』の是非については一旦の決着が着いた」と評価した。

日本における「制度化」は実現しない

 それでも、将来的なかかりつけ医の登録制・人頭払い制の導入を懸念する声はある。二木氏は、「緩やかな『制度化』では財政的な節減効果は生じない可能性が大きい。『かかりつけ医の制度化』は今後も必要ないし、実現しない」と今後の展望を述べた。かかりつけ医のあり方については、「かかりつけ医を持つこと・選ぶことは国民・患者の『権利』ではあるが、『義務』にすべきではない」との考えを強調した。

「かかりつけ医機能」の内容を明示 火種は残る

 二木氏は、前述の医療法改正案について、かかりつけ医機能の確保策として「大枠で妥当」と評価しつつも、条文内でかかりつけ医機能を5つに明示したことについて、「疑問は残る」とした。5つの機能とは、①外来医療の機能、②休日・夜間の対応、③入退院時の支援、④在宅医療の提供、⑤介護サービス等との連携、である。二木氏は、5つの機能そのものに異論はないとしつつも、「将来的に医師に対する規制強化のテコとなる危険性がある」と述べた。特に、「②休日・夜間の対応」を単独で提供できる一人医師体制の診療所は限られるため、「他の医療機関と連携して提供できる方式を幅広く認めるべき」と強調した。

(『東京保険医新聞』2023年6月5日号掲載)