[視点]多摩地域の有機フッ素化合物PFAS汚染に対する取り組み

公開日 2023年06月30日

多摩地域の有機フッ素化合物PFAS汚染に対する取り組み

                      

健生会立川相互ふれあいクリニック 青木 克明

1.多摩地域の水のPFAS汚染

 PFASと呼ばれる有機フッ素化合物は耐熱性、対薬性に優れておりコーティング材、泡消火器、半導体などに広く利用されてきた。しかし、分解されることなく、人体に長く留まることから発癌、脂質異常症、甲状腺機能障害、免疫不全などの健康被害が明らかとなり、使用の規制がされているが、日本では対策が遅れている。

 多摩地域は地下水が豊富で「東京の名水57」のうち38が多摩地域にあり、水道水の1~2割を278本の井戸から採水して400万人に賄ってきた。

 東京都は2007、8年に多摩地域の234カ所で水道水を調査し、PFASが4カ所で1000/ℓを超え、30カ所で100/ℓを超えていたがデータは公表しなかった。2018年度までに計80カ所で70/ℓを超え、24カ所で200/ℓを超えており、2019年6月に府中武蔵台、国分寺東恋ヶ窪、国立中浄水所の5本の井戸、2021年5月までに立川市、府中市など7市の11施設で34本の井戸からの取水を停止した。

2.「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」の取り組み

 2020年1月に横田基地近くの井戸から1340ng/ℓという高濃度PFASが検出されたことが報道され、「横田基地の撤去を求める西多摩の会」が中心となって2月24日に小泉昭夫氏(京都大学名誉教授)を講師に「PFOS・PFOAの汚染を知る学習会」を開催し、2022年8月7日に「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」が発足した。

 多摩地域の住民と医療機関、原田浩二氏(京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野 准教授)の共同で住民の血中PFASの測定を実施することとなった。

 2022年11月から23年3月にかけて、国分寺本町クリニックを皮切りに、多摩地域の15診療所(健生会9)で650人に問診と採血を実施した。血液検査はPFAS4種類(PFOS、PFOA、PFHxS、PFNA)と血算、肝機能、脂質、腎機能、糖尿病、CRPである。

 参加者の平均年齢は66・8歳で最高92歳、最少19歳。性別は女性435名、男性215名。

 居住地は22市2町1村で、多摩地域の自治体の83%に及び、世田谷区からの参加もあった。

 最大値と平均値は下表の通りであり、環境省が2021年に3カ所で119人を対象に実施したPFAS検査に比べて平均値はPFOSが2・8倍、PFOAが3・8倍であった。

 米国科学アカデミーの指針値である4つのPFAS合計で20 /㎖を超えたのは335人(52%)、健康影響がよく研究されているPFOS+PFOAが20/㎖を越えたのは132人(20%)であった。

 各自治体でPFOS+PFOA が20/㎖を上回った割合を示す。

 国分寺市54%、立川市45%、武蔵野市30%、青梅市21%、あきる野市21%、国立市18%、西東京市17%、小平市14%、府中市13%、調布市10%、武蔵村山市10%、昭島市10%、羽村市9%、小金井市9%、福生市8%、八王子市8%、三鷹市8%、東大和市6%、檜原村6%、瑞穂町0%。

 PFAS高値者の多い自治体は米軍横田基地の東側に連なっており、地下水の流れと一致している。横田基地では訓練や事故でPFASを含む泡消火剤を多量に放出しており、地下水に入って汚染源となっている可能性が高い。立ち入り調査が必要だが、日米地位協定によって実現できない。

 飲み水に水道水を使用していない方、浄水器を使用している方はPFAS血中濃度が低く、井戸水を飲んだ経験のある方はPFAS濃度が高い傾向にあった。

 

3.PFASの人体影響 

 米国がん協会はPFOAによってリスクが高まるがんとして、精巣、腎臓、前立腺、膀胱、卵巣を挙げている。

 米国国立がん研究所は腎臓癌の発症はPFOA血中濃度が4/㎖以下の場合は年間4074人に1人なのに対して、7・3/㎖を超えると年間1549人に1人で2・63倍に増えるとの報告をしている。

 米国疾患予防センターCDCの調査ではPFOS濃度が17・1/㎖以上のものは7・9/㎖以下に比べて全死亡が1・57倍、心臓病死が1・65倍、 がん死が1・75倍であった。

 米国科学アカデミーは臨床医に対するガイドラインとして7種類のPFAS合計値が20を超えた場合には、腎臓癌、精巣癌、脂質異常症、甲状腺機能、潰瘍性大腸炎の検査をすること、妊婦の被曝の軽減と妊娠高血圧症候群のスクリーニングを提示している。

4.PFAS相談外来

 立川相互ふれあいクリニックではPFASの血中濃度の高かった方の不安に応えるため、5月17日から週3回の「PFAS相談外来」を開設している。米国科学アカデミーのガイドラインを参考にPFOA+PFOSが20/㎖を越えた場合には、腎臓癌に対して腹部エコーを直ちに実施して結果を説明し、甲状腺疾患に対してTSH検査を実施している。

 PFASは血中蛋白と強く結合しており、腎臓と腸管で再吸収されるので半減するには5年前後要する。新たなばく露を避けることと、検診受診、生活改善などを勧め、健生会で作成した「PFASガイドブック」を差し上げている。

5.今後の課題

①多摩地域すべての自治体で10人以上となるよう約200人の追加の検査

②身近な井戸水、農産物、土壌の調査

③国、都に対してPFAS検査の実施、汚染源の特定を求めること

④PFAS検査の希望者は多く、今回高値だった方の経過観察のためにも現在東京には存在しないPFAS検査施設を確保すること

(『東京保険医新聞』2023年6月25日号掲載)