[解説]規制改革実施計画 患者の同意なしで医療情報取得可能に

公開日 2023年07月26日

 政府の規制改革推進会議は6月1日、規制改革推進に関する答申をまとめ、岸田首相に提出した。それを受け、政府は6月16日、「規制改革実施計画について」を閣議決定した。医療など5分野、計約260項目に上る計画だ。

仮名加工医療情報で患者が特定される危険性

 医療・介護・感染症対策分野では最初に「医療等データの利活用法制等の整備」が掲げられている。具体的には、医療・ケアや医学研究、創薬・医療機器開発などに活用するため、製薬会社や研究者が電子カルテ等の医療等データを患者本人から明示の同意を得ずに、個人が特定されないよう仮名加工等し利用できるようにする法律の制定を含め、所要の制度・運用の整備および情報連携基盤の構築等を検討する。必要であれば個人情報保護法の見直しも行うとしている。

 「仮名加工医療情報」の創設は、5月17日に国会で可決された「令和5年改正次世代医療基盤法」に盛り込まれたものだ。

 これまでは次世代医療基盤法に基づき、医療機関などが保有する患者の診療情報をはじめとする大量の医療データを「匿名加工」して製薬会社や研究機関に提供、創薬研究などに活用してきた。事業者は、患者個人を識別できないように匿名加工した「匿名加工医療情報」を利用していたが、同じ患者の診療履歴を追いにくかったり、新薬の薬事承認申請でデータを利用できなかったりする課題が指摘されていた。

 仮名加工医療情報とは、患者の氏名やIDを削除するなどして個人を特定できないよう加工した情報で、特異な値や希少疾患名の削除は不要だ。膨大なコストがかかる臨床試験に代わり、日常の診療で生まれる医療データを活用した新薬の薬事承認などを視野に入れている。

 仮名加工医療情報は他のデータベースと照合するなどして、患者情報の連結や患者本人を識別することが可能となるため、仮名加工医療情報を利用する事業者には、適切なデータの安全管理措置を取ることが求められる。

 政府のワーキンググループ会議で座長を務める宍戸常寿教授(東京大学大学院法学政治学研究科)は、「仮名加工医療情報はデータの突合がしやすくなり、患者本人を識別できるようになる可能性がある。認定利用事業者にどれだけ適切な規律をかけるか、またその規律の実効性があるかどうかが肝になる」と述べている。規律の実効性については、例えば仮名加工医療情報からの患者本人識別を禁止した場合、仮に事業者がデータ活用の過程で本人識別をしていても、外部からはその事実を検証できないと指摘されている。

 医療情報を巡っては2022年にも、NTTデータとライフデータイニシアティブが、患者に必要な通知をせずに約9万5千人分の医療情報を取得し、「匿名加工医療情報」として、第三者に提供した事件が発生している。今後、「仮名加工医療情報」においても杜撰な情報管理や違法な情報収集が行われる危険性があり、情報漏洩が起きれば患者本人が識別される事態も想定される。

 同法は公布日の2023年5月26日から1年以内に施行されることとなっており、今後、政令や基本方針、ガイドライン等の準備が進められることになる。患者のプライバシーと医師の守秘義務が蔑ろにされることのないよう、医療情報の利活用について監視を続ける必要がある。

オンライン診療 医師非常駐でも開設可能に

 「オンライン診療のための医師非常駐の診療所」を都市部などでも開設可能とする方針を2023年中に検討し、結論を得るとしている。厚労省は、オンライン診療のための医師非常駐の診療所について、医療資源が限られ、受診機会が十分確保されていない場合があるへき地などに限り、認める通知を出している。

 計画では「個別の患者が居宅以外にオンライン診療を受けることができる場所について明らかにするとともに、デジタルデバイスに明るくない高齢者等の医療の確保の観点から、今般へき地等において公民館等にオンライン診療のための医師非常駐の診療所を開設可能としたことを踏まえ、へき地等に限らず都市部を含めこのような診療所を開設可能とすることについて、引き続き検討し、結論を得る」とした。

オンライン請求原則義務化に向けた施策

 オンライン請求については「『オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ』が実効的なものとなるよう、必要な対策を講ずる。具体的には、光ディスク等による請求や紙レセプトによる請求を継続しようとする医療機関等が提出するオンライン請求への移行計画や届出について、厚生労働省は、「経過的な取扱いが必要なものと認められる事情や移行に向けた計画として記載すべき事項等を整理・明確化するとともに、医療機関等が必要な対応を早期に行うよう促し、提出された移行計画等が適切なものであることが確認されるようにする」としている。

 在宅医療については「16㎞を超えた往診が可能となる『絶対的な理由』について」の整理を行い、「他の診療所の管理者がへき地や医師少数区域等の診療所の管理者を兼務可能であることの更なる整理・周知を検討する」とした。

 また、看護師のタスクシェア、特定看護師の養成・拡充・活用、在宅における円滑な薬剤投与・点滴交換についても検討を進めるとしている。

 今国会で成立した保険証廃止法案は厚労省ではなくデジタル庁が主導して強引に進められてきた。内閣の下におかれている医療DX推進本部も厚労省、デジタル庁、経産省、総務省で構成され、6月2日には医療DX推進工程表が発表されている。

 協会は今後も厚労省のみならず多方面にわたり、地域医療体制や患者の権利が侵害されることのないよう監視と運動を続けていく

(『東京保険医新聞』2023年7月15日号掲載)