[解説]オン資ができない場合の対応 保険証持参が唯一の解決策

公開日 2023年08月03日

 厚労省は2023年7月10日、保険局長通知「マイナンバーカードによるオンライン資格確認を行うことができない場合の対応について」を発出した。

 厚労省は本通知の基本方針として「保険料を支払っている被保険者等が、適切な自己負担分(3割分等)の支払で必要な保険診療を受けられる」「医療機関等には、事務的対応以上のご負担はおかけしないようにする」の2点を掲げている。

 通知の内容は、6月29日に開かれた第165回社会保障審議会医療保険部会で示された枠組みを文章化したものである。

 「資格(無効)」「資格情報なし」と表示された場合や機器不良等のトラブルでオンライン資格確認ができない場合には、マイナポータルの資格情報画面または患者持参の健康保険証で資格確認を行い、それらの方法がとれない場合には、患者にその場で「被保険者資格申立書」を記入してもらうことで、患者自己負担分を受領するとしている。

 診療報酬請求にあたっては、資格確認できた場合はそれに基づいて請求を行い、それが困難な場合も過去の資格情報が確認できた場合には、当該資格情報に基づいて請求を行うとしている。

被保険者資格申立書は新たなトラブルにつながる

 資格確認できなかった場合に記入するとされた「被保険者資格申立書」の内容は、保険証等に関する事項(保険証の有無、保険種別、保険者等名称、事業所名、交付を受けた時期、一部負担金の割合)マイナンバーカードの券面事項等(氏名、生年月日、性別、住所)、連絡先等である(下書式参照)。

 マイナカード券面記載の4情報を除いた項目は、患者が記憶に基づき記載するため、不完全であったり間違っている可能性がある。たとえば、「一部負担金の割合」の項目で「わからない」にチェックされていた場合、医療機関は何割受領すれば良いか判断できない。

 また、70歳以上は所得に応じて一部負担金の割合が異なり、生年月日では窓口負担割合を確定できないので過不足が発生する。子ども医療費助成制度で、本来窓口負担ゼロの乳幼児や児童の受診でも、オン資トラブルが発生した場合には2割負担、3割負担を求めることになり、患者とのトラブルにつながる。

 さらに医療機関は、「資格申立書」の記載事項を元に、資格情報を特定する作業が求められ、転記等のミスや、間違った資格情報で請求するリスクを負うことになる。特定が困難な場合は、保険者番号や被保険者番号が「不詳」のまま保険請求が行えるとしているが、不詳での請求が多ければ、保険者側の支払い遅延が発生する可能性がある。

 医療機関・患者双方に様々な手間やリスクを負わせる内容となっており、「事務的対応以上のご負担はおかけしない」との基本方針からは程遠い。

 その他の具体的な運用(喪失済みの資格や過去の受診歴等から確認した資格に基づき保険請求を行う方法、被保険者情報「不詳」での保険請求を行う方法、審査支払機関での特定作業、特定不能の場合の保険者の案分方法等)については、別途通知するとされた。しかし、これらは運用の根幹にあたる部分であり、通知は不完全なものと言わざるを得ない。

 

マイナ保険証ありきの対策では解決不可能

 そもそもオンライン資格確認をめぐるトラブルは、従来の健康保険証を使っていれば発生しなかったものである。通知に示されたマイナ保険証ありきの枠組みでは今ある問題を解決できないだけでなく、新たな問題を生み出すことになる。

 唯一の解決策は、患者に健康保険証を持参してもらうことである。協会が作成した「保険証を持参してください」ポスターをぜひ活用いただきたい。

 協会は、患者と医療現場を混乱に陥れる保険証廃止の撤回を求めて活動を強めていく。

(『東京保険医新聞』2023年7月25日号掲載)