[視点]神宮外苑再開発の問題点について

公開日 2023年09月27日

神宮外苑再開発の問題点について

                      

神宮外苑訴訟原告訴訟代理人 山下  幸夫

 小池百合子東京都知事は、三井不動産株式会社、明治神宮、独立行政法人都市再生機構および同伊藤忠商事株式会社を事業者とする神宮外苑地区第一種市街地再開発事業についての個人施行を2023年2月17日に認可しました。これに対して、現在、160名の住民がその認可の取消を求める訴訟を東京地方裁判所に起こしています。

 この再開発事業では、現在ある神宮球場とラグビー場を入れ替えて、建て替えることが予定されています。そのためにまず第二球場を解体し、建国記念文庫の森を破壊して、ラグビー場の建設に着手し、それが仮竣工したら、秩父宮ラグビー場を移転して、その跡地で新神宮球場の建設に着手します。野球場の観客席上にはホテルが併設され、ラグビー場は屋根付人工芝となります。青山通りに面する伊藤忠ビルは190メートルの超高層ビルに建て替え、スタジアム通りに面する西側のエリアに複合棟と称してホテルやオフィスが入る185メートルと80メートルの超高層ビルが2棟建設されます。そのために神宮外苑のうち、3・4ヘクタール分が都市計画公園から除外されます。

 総事業費は約3490億円、工期は約13年間という大規模な再開発事業です。認可に基づき、事業者は、神宮外苑にある第2球場の解体工事を開始し、まもなく、始期内にある樹木の伐採などに着手すると言われています(新宿区に対して風致地区条例に基づく木竹の伐採許可申請をして、同年2月28日に許可を得ています)。

制度の悪用・濫用と住民不在の決定

 今回の神宮外苑再開発で適用された「公園まちづくり制度」は、本来は公園として買収・整備できず、実態としては密集住宅地のような空間になってしまった都市計画公園区域内の「未供用地」の一部を公園区域から外して、その区域を再開発することによって、地区施設としての緑地等を備えた、公園に準ずるような空間にするための制度です。

 ところが、神宮外苑地区では、空間的には現状のままで公園となりうるラグビー場等の敷地を「未供用区域」として扱い、既に供用土地となっている神宮球場の敷地などを含む土地を都市計画公園区域から外し、都市計画公園では建てられないオフィスビル等を建てられるようにした上で、この区域と都市計画公園内の区域を再開発しようとするものです。本来の「公園まちづくり制度」の趣旨から大きく逸脱するもので、制度の悪用または濫用です。

 さらに東京都は、この公園まちづくり制度の適用について、都市計画手続前の案作成段階における行政内部による判断であるとして非公開とし、東京都民が知らない密室で議論して「東京都公園まちづくり制度」の適用を決定しており、市民への情報提供や市民参加がなされないまま決められています。

 その上で、都市計画審議会や住民参加の手続がとられないまま、都市再開発法に基づく再開発事業についての都市計画決定を経ておらず、その要件を満たさない可能性があるのに、都市計画審議会で審議することなく小池都知事が認可しています。その内容は著しく不合理であり、その手続においても住民の意見を十分に反映しておらず、およそ適正な手続によるものとは認められません。

環境への影響 国際機関からも懸念の声

 また、再開発事業が環境に与える影響を調査検討する環境アセスメントについて、事業者が情報を十分に出さないばかりか、ユネスコ世界遺産委員会の諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)日本委員会から、環境影響評価書案に虚偽や不備があると指摘され、それに対する事業者の回答や対応が求められたにもかかわらず、十分に対応しませんでした。イコモス日本委員会は環境影響評価審議会への出席を求めましたが、認められませんでした。その結果、環境影響審議会での審議は極めて不十分であり、科学的な環境アセスメントがされたとは言えません。

 環境影響評価(アセスメント)の世界的な学会である「国際影響評価学会(IAIA)」日本支部は、2023年6月15日、環境アセスの進め方に問題があるとして、東京都の小池百合子知事に対して、工事の中止などを勧告しました。IAIA日本支部は、再開発事業の環境アセスの進め方には科学的な観点から問題があり、「SDGsに真っ向から反する」と指摘しています。

 また、イコモスと日本イコモス国内委員会は、同年9月7日、神宮外苑再開発事業については「世界の他の公園にはない歴史を持つ神宮外苑が、都市再開発によって差し迫った脅威にさらされている」と警告して、「遺産危機警告(ヘリテージアラート)」を発出し、事業者に対して本件再開発事業の撤回を求め、東京都知事には都市計画決定の見直しなどを求めています。

 このように、本件再開発事業に対しては国際的な機関からの見直しを求める声があがっています。

 この事業の見直しについては、坂本龍一さんが亡くなる直前に小池百合子都知事に手紙を送るなどして反対を表明し、作家の村上春樹さんや歌手の加藤登紀子さんら著名人の中でも、見直しを求める声が広がっています。サザンオールスターズもこの問題について新曲で取りあげるなど多くの人たちから反対の声が次から次へと出されている状態です。

 そこには、神宮外苑の素晴らしい緑の環境を保全してもらいたいとの願いが込められています。

 皆さんにも是非この訴訟や反対の運動に関心を持っていただき、署名などに参加されることをお願いしたいと思います。

(『東京保険医新聞』2023年9月25日号掲載)