[視点]水俣病被害者の早期救済が強く求められている

公開日 2023年11月21日

水俣病被害者の早期救済が強く求められている

                      

ノーモア・ミナマタ第2次国賠請求等熊本訴訟弁護団長/弁護士  園田  昭人

 ノーモア・ミナマタ第2次国賠請求等近畿訴訟につき、大阪地裁は、2023年9月27日、原告128人全員の水俣病罹患を認め、チッソ、国及び熊本県に対し、損害賠償を命じました。以下では、水俣病問題の現状、大阪地裁判決の特徴や意義、水俣病被害者の早期救済が求められていることなどにつき述べます。

未だ解決していない水俣病

 水俣病は、チッソ水俣工場の排水に含まれるメチル水銀に汚染された魚介類を摂食することにより生じる公害病です。チッソはメチル水銀を含む多量の排水を長期間にわたって不知火海に垂れ流し、国、熊本県も排水規制をしなかったことから被害が拡大しました。さらには、国が健康調査をしていないことから、被害の広がりは解明されておらず、紛争が続いています。公害の原点と言われる水俣病が、公式確認(1956年5月1日)から67年が経過しても解決していないことは、異常なことです。

 2004年10月の水俣病関西訴訟最高裁判決により、国及び熊本県の国賠責任が確定しましたが、その後も行政は、適切な救済策を取りませんでした。そこで、未救済の水俣病被害者は、ノーモア・ミナマタ第1次国賠請求等訴訟を熊本地裁、大阪地裁、東京地裁に提起しました(原告数3千人)。この訴訟が契機となり、議員立法として、水俣病被害者救済特別措置法が、2009年7月に成立しました。

 しかし、行政はこの特措法に基づく救済対象者の認定において、地域や年代の線引きにより被害を否定し、棄却された者の異議の申立ても認めませんでした。また、被害者団体の強い反対にもかかわらず、環境省は、2012年7月末で、申請の受付を締め切りました。

第2次訴訟の経過と評価

 地域や年代の線引きにより特措法の救済対象者と認められなかった者、あるいは申請受付の締め切りに間に合わなかった者が中心となり、チッソ、国及び熊本県に対し、水俣病罹患による損害賠償を求め提起したのが、ノーモア・ミナマタ第2次国賠請求等訴訟です。2013年6月20日の熊本地裁への提訴を皮切りに、東京地裁、大阪地裁に提訴しており、全体の原告数は、1608人です。なお、新潟水俣病については、新潟地裁に同様の訴訟(ノーモア・ミナマタ第2次新潟全被害者救済訴訟、原告数151人)が提起されています。

 これらの訴訟のうち、地元(熊本県、鹿児島県)から近畿地方に移り住んだ被害者が提訴したのが、ノーモア・ミナマタ第2次国賠請求等近畿訴訟です。大阪地裁の判決は、曝露の判断、水俣病像の捉え方、診断方法、因果関係の判断のいずれについても、被害実態及び研究データを丁寧に検討のうえ社会通念に合致する判断をしています。疫学による立証を重視した点が、これまでと異なる大きな特徴です。原告らは、曝露地域と非曝露地域における感覚障害の発生頻度を比較し、メチル水銀が影響して発症したと認められる者の割合である寄与危険度割合が90%を超えるという研究結果を裁判所に証拠として提出しました。判決は、このような疫学的知見は、法的因果関係を判断する上で、重要な基礎資料となると判断しました。大気汚染によるぜんそく被害などでは普通に採用されてきたことが、水俣病でも採用されたといえます。

 国は、水俣病の診察や研究をしたことがない権威者と言われる医師や学者を証人として、原告らは水俣病ではない、地域や年代からみてメチル水銀の曝露はなかったなどと主張していました。そもそも、水俣病の診察や研究をしたことがない医師や学者に水俣病像、診断方法、曝露の有無が分かるものでしょうか。また、被害者団体が繰り返し求め、特措法にも規定されている健康調査はしないでおいて、不知火海産の魚介類を多食していた原告らの曝露を否定することは社会通念に反します。大阪地裁が、国の主張を認めなかったことは当然のことであり、新聞、テレビ等のメディアも、大阪地裁判決を高く評価しています。国と熊本県は、大阪地裁判決を不服として控訴しましたが、控訴の理由があるとは思えません。

被告は解決交渉に応じよ

 原告らは、平均年齢が70歳を超えており高齢化しています。私の元には毎日のように原告の訃報が届いています。被告らが、高裁で延々と争うことは、原告らが死亡することを座視することであり、もはや人道に反するといえます。環境省は、大阪地裁判決を機に、特措法の受付を再開し、実態重視の運用に改めるべきです。2024年3月22日には熊本地裁の判決、4月18日には新潟地裁の判決が予定されています。今、水俣病被害者の早期救済が強く求められています。被告らは、いたずらに争うべきではなく、原告団及び弁護団との解決交渉に応じるべきです。

(『東京保険医新聞』2023年11月15日号掲載)