[視点]PFASへの曝露と健康リスク 求められる対策

公開日 2023年12月11日

PFASへの曝露と健康リスク
求められる対策

                      

京都大学 大学院医学研究科環境衛生学分野 准教授  原田  浩二

地球全体に広がった「永遠の化学物質」

 PFAS(フッ素化アルキル物質、per- and polyfluoroalkyl substances)は有機フッ素化合物のうち、特にフッ素原子を多く含む一群である。1940年代頃より衣料品の防水加工、食品容器などの撥水・撥油剤、燃料火災の消火に使われる泡消火剤、フッ素樹脂の製造過程での助剤などとして利用されてきた。

 PFASは化学的に安定な物質が多く、環境中で長期に残留し、汚染を引き起こしうると考えられている。そのため「永遠に残留する化学物質」‘Forever Chemicals’とも呼ばれている。大手化学メーカーの米国3M社は、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA)の2物質を生産してきた。しかし、3M社は2000年にPFOSとPFOAの製造を2002年までで廃止することを公表した。環境に残留し、また生物への蓄積性があるからで、将来的には健康へのリスクもありうるというおそれからの判断であった。

 数十年間使用されてきた結果、PFASは今や地球全体へ広がっており、私たちも多かれ少なかれ曝露してきており、体内にもある程度蓄積している。飲料水、食品からのPFAS摂取が考えられている。2000年代に、上記のPFOS、PFOAの使用が減少したことで、曝露量は減少したと考えられ、血中PFAS濃度も低下していることが報告されてきた。しかし、これらのPFASが残留し、今でも高い濃度で土壌、地下水で検出されることが明らかになってきている。

 沖縄県本島中部、東京都多摩地区では数十万、数百万の住民に供給される水道水にPFOSが高濃度で含まれていたことが近年明らかになった。その結果、体内へも蓄積がみられ、2022年、2023年と血液中濃度を検査してきた中でその実態が明らかとなった。沖縄県内6市町村、387名の分析結果、汚染がみられた北谷浄水場の配水域、またその他の自治体でもPFOS、PFOAが10~14/㎖と対照となる地域より平均で2から3倍ほど高い濃度で検出された。

 東京都多摩地区では、水道水中濃度が高かった国分寺市の参加者で沖縄県での調査より高い平均濃度PFOS17・0/㎖、PFHxS17・8/㎖で検出された。

PFASの健康への影響

 PFOS、PFOAについてこれまで種々の動物実験、疫学研究が行われてきた。PFOS、PFOAは肝障害を顕著に引き起こすことが知られていた。げっ歯類では肝臓、乳腺、精巣、膵臓の腫瘍を引き起こし、国際がん研究機関ではPFOAが2Bに位置づけられている。発達影響でも新生仔の成長阻害は他の毒性試験より低濃度で確認されている。

 疫学研究では、デュポン社のワシントン工場周辺の米国オハイオ州とウェストバージニア州の住民6万9千人の疫学調査が実施され、PFOA曝露と高コレステロール値、腎臓がん、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、および妊娠高血圧症との間に「関連性が高い」と報告された。その後の他の研究からも、出生体重の低下傾向、ワクチン接種後の抗体価が低下する傾向などのアウトカムについても報告されてきた。

 これらの有意な関連が示された血液中濃度は、一般の集団でも十分ありうるものであり、ドイツ環境庁のヒトバイオモニタリング委員会はPFOS血清中濃度20/㎖、PFOA10/㎖(妊娠可能年齢女性ではそれぞれ半分の濃度)、米国科学・工学・医学アカデミーは7種のPFASの合計値で血清中濃度20/㎖を超えると上記のリスクがありうるとして、曝露予防、健診を推奨している。 これを国分寺市の血液調査結果にあてはめると、ドイツの指針で32%、米国アカデミーの指針で93%の参加者が超えることになる。地域の相当な割合が影響を受けることになる。北多摩地区では他の自治体からの参加者でも米国アカデミーの指針を3~7割で超えていた。

行政の責任で対策を 医療面からも支援が必要

 PFASは特定地域の問題と考えられがちであるが、2023年に入り、日本各地で地下水や水道水の汚染が報告されるようになった。2020年に暫定目標値などが設定されたことで自治体が調査を行うようになり、明るみになってきたといえる。

 PFASはこれまで長期にわたって使用されてきたことから、製造、使用、廃棄の過程で環境中に排出されてきたものであり、その影響が残留していることが予想される。自治体は特に住民の曝露に繋がりうる、飲料水の検査を実施することと、目標値を超える場合には活性炭による処理を徹底するなど対応が必要である。また地下水などの汚染が生じているという場合には、その発生源を特定し、汚染が広がることや継続的な排出を防止する必要がある。PFASは分解しにくく、汚染土壌から長期的に染み出すと考えられる。また地域的に曝露が高いことが判明した場合、医療の面からも支援が必要と考える。PFASに関連する健康リスクについて、地域の医療者と協力して、診療、健診を充実することでリスクの未然防止、また住民の不安を解消することにつながると考える。

 環境保健に関する課題は、個人として対応していくことには限界があるため、行政が責任をもって対応する必要がある。PFASは汚染が長期化することが予想され、また健康影響も急性ではないが、将来のリスクを防止するという点で住民に見通しが分かるように方針を示し、対策を進めていくことが必須であると考える。

(『東京保険医新聞』2023年11月25日号掲載)