[視点]能登半島地震と志賀原発

公開日 2024年03月18日

能登半島地震と志賀原発

                      

原子力資料情報室 上澤 千尋

■24年能登半島地震による激しい揺れと地盤の隆起

 2024年1月1日16時10分に能登半島の北東端の珠洲市を震源とするマグニチュード(M)7・6(震源の深さ16㎞)の地震が発生し、激しい揺れが奥能登を中心に北陸地方の広い範囲をおそった。

 16時6分にはM5・5(最大震度5強)の前震がおき、本震のあとには、M6・1(16時18分、最大震度5強)をはじめ、多数の地震が続いた。地震は、長さ150㎞、幅30㎞ほどの範囲でおきている(2月22日時点でM3・5以上が568回)。

 本震の最大震度7と地表面での最大加速度2828ガルは、震央のすぐ近くではなく、約60㎞南西の志賀町富来(とぎ)に設置された地震計で計測・観測された。志賀原発のほぼ真北、わずか11㎞の位置だ(もう1箇所、輪島市門前町でも震度7を計測したが、データの伝送ができず、1月25日になってようやく確認された)。

 人工衛星からの観測、空中写真の地形判読、現地での測量調査によって、能登半島の北部の広い範囲で地殻変動(地盤の隆起と移動)がおきていることがわかった(下図参照)。隆起の激しかったのは輪島市の北西側地域(約4m)、珠洲市の西側地域(約2m)などだ。珠洲市から志賀町のあいだの海底が約90㎞にわたって陸地化しており、海底から地盤が持ち上がったことを示している。

 

 能登半島では海成段丘とよばれる階段状の台地が広がっていることが知られている。よく知られているのは、約13万年前に波などの作用で作られた砂浜や岩石海岸が大きな地震がおきるたびに隆起したものだ。

■志賀原発でも多数のトラブル発生

 地震直後には、1号炉の燃料プール冷却浄化系のポンプが一時的に停止した。1号炉・2号炉の使用済み燃料プールの水が地震の揺れにより揺動を起こし、プールの外にあふれ出した。

 敷地内の変圧器が破損し絶縁油が大量に漏えいしたたため、外部電源のうち最も太いものが全く使えなくなっている。変圧器の復旧は目途が立たず非常態勢での受電が続いている。

 そのほか、敷地内の各所で建物や構造物の基礎の損傷、地面の変形などが見つかっている。

 志賀原発の敷地内にはいくつもの断層が存在し、そのうち原子炉建屋などの真下にあるものについて、原子力規制委員会が設置した専門家会議は、今後も活動する可能性のある活断層だと認定していた。しかし、2023年3月に原子力規制委員会は、北陸電力が提示した膨大なデータに押されて、活断層ではないと認識を変更してしまっている。

 今回の地震によって志賀原発で発生したトラブルの発生場所と活断層の分布を重ねてみると無関係には思えない。舗装をはがして地盤を直接観察するなどの再調査が必要である。

■「想定外」では許されない活断層認定と地震動算定の問題点

 能登半島北部の沿岸海底の逆断層が150㎞にわたって動いたことで、能登半島地震がおきたと考えられている。南南東方向の地下深くへとのびる斜面(断層面)を境に、斜面の上側にあたる陸側の地盤が一気に持ち上げられたため激しい揺れとなった。

 現在進行中の規制基準適合性審査の中で、北陸電力が能登半島北側に想定していたのは、実際の地震の活断層より短い長さ96㎞の活断層(能登半島北部沿岸断層帯)である。

 海上の船から音波をつかって海底下の深い場所の地質を調べ、活断層を推定する方法がある。この方法では海岸近くの浅い場所でのデータ取得に問題があって、活断層を短く認定しがちであることがわかっている。北陸電力が活断層を見つけられなかったのは、この方法に頼りすぎたためだ。

 変動地形の研究者らは、海底の地形のデータから地形図を作成し、陸上の地形図から活断層を見つけるのと同じやり方を開発し、今回の地震をおこしたとされる活断層と同じ規模の活断層を10年も前に見つけ出している。北陸電力だけの問題ではなく、原子力事業者全体がサボタージュした結果だ。

 地震の規模については、北陸電力は能登半島北部沿岸断層帯がおこす地震を今回の地震を上回るM8・1と想定していた。しかし、観測されたものより小さな揺れしか算定できていなかった。

 原子力事業者が採用している揺れの強さの計算のしかたに問題があり、原発と震源との距離のとり方などいくつかの理由から、結果が小さくなることは以前から指摘されていた。

■原発は震災に無防備

 複数の活断層の連動による大地震の発生、海成段丘が発達する地域での地盤隆起から想起される建物・構造物の破壊や冷却用水取水の不能の可能性、二次的な敷地内小断層の活動による施設の破壊の可能性など、原発の安全性を直撃する問題がいくつもあきらかになった。

 また、事故時の監視システムとしての自治体が設置したモニタリングポストが機能しなかったことや避難道路の崩落も起き、地震による原発事故が起こればひとたまりもないことが改めて明らかになった。

(『東京保険医新聞』2024年3月15日号掲載)