[視点]災害時の避難所のあり方を考える ―海外との比較から―

公開日 2024年04月22日

災害時の避難所のあり方を考える ―海外との比較から―

                      

新潟大学医歯学総合研究科先進血管病・塞栓症治療・予防講座 榛沢  和彦

教訓が活かされない日本の避難所運営

 2024年4月3日に台湾花蓮付近を震源地とするマグニチュード7・7の地震が発生した。テレビでご覧になった方もいると思うが、発災数時間後には避難所にパーティションテント全員分と内部に簡易ベッドと毛布が配布されていた。また食事も避難所となっている体育館の外で調理され温かい食事が提供されていた。これまで私は欧米の避難所運営との比較を行ってきたが、とうとう日本はお隣の台湾にも避難所運営で先を越されてしまったと愕然とした。

 台湾の報道を聞くと、花蓮では以前にも大きな地震があり、それを教訓に準備していたという。一方、能登半島地震はどうであったか。2007年に旧門前町を中心に大きな被害を受けた地震があり、昨年も地震があった。その教訓は能登半島地震で活かされたのか。今回の能登半島地震は前回の10倍以上の規模であったため、準備が間に合わなかった、足りなかったということはあるだろう。しかし、それにしてもである。

 図1は2024年1月21日のある避難所での雑魚寝の様子で、肺塞栓症になった被災者が出た。図2は1月28日のある避難所でパーティションテントはあったが簡易ベッドは無かった。図3は1月28日のある避難所で、未だ雑魚寝のままであった。図4は3月24日の珠洲市の様子で、未だ倒壊した家屋が至る所で放置された状態である。一方、台湾では発災4日後で倒壊したビルの撤去が半分終わっている。

図1~3 能登半島地震での避難所の様子

図1 24年1月21日撮影


図2 24年1月28日撮影


図3 24年1月28日撮影


図4 珠洲市の様子(24年3月24日撮影)

災害支援が滞る構造的理由

 珠洲市でエコノミークラス症候群予防検診を行っていた際に新聞記者の取材を受け、「日本は災害大国なのにどうしていつも、こうなるのでしょうか」と質問を受けた。実はこの質問は20年近く聞かれ続けている。この原稿も編集部は同じ疑問を持って私に依頼してきたのだと思う。

 その答えは現在の災害対策の法体制、システムに原因がある。現在の災害に関する法律では、住民の命を守るのは市町村の役目としている。すなわち最も重要な生命財産を守るのが基礎自治体になってしまっている。一方、多くの基礎自治体はもともと自立した市税などによる予算が乏しく、国の交付金に頼らざるを得ない。なので滅多に起きない災害対策関連費予算は少なくせざるを得ない。また市町村を支援する県も同様である。

 さらに悪いことに、国に災害専門省庁(復興庁は災害対策全般を行えるわけではない)が無いことから、平時の災害支援のための予算(備蓄など)が国には基本的に無い。だから、災害が発生してから災害対策のための補正予算を国会で承認してもらってからでないと現実的な(お金が出せる)災害支援ができない仕組みになっている。したがって災害備蓄はあると言っても、自治体の少ない予算から絞り出したお金で少量を備蓄しているに過ぎない。

 例えば簡易ベッドは多くの県が備蓄し始めているものの、その数は多くて500台程度である。これで大規模な災害が起きたら足りるはずもない。またこれらの備蓄は国からの予算ではなく、自治体の予算で購入したことから他県へこれらの備蓄を送付するには手続きを踏まないと難しく、すなわち時間がかかる。自治体は発災時の防災協定を多く締結しているが、備蓄ではないのでその手配、製造、輸送に時間がかかる。

 段ボールベッドの防災協定はほとんどの県で締結されているが、2018年発災の西日本豪雨災害では防災協定を締結している自治体が発災直後に段ボール業界に発注しても避難所に段ボールベッドが到着するまで1週間かかっていた。一方、同年に発災した北海道胆振東部地震では北見市にある日本赤十字社北海道看護大学に演習用に備蓄してあった段ボールベッド400台を国の備蓄とみなしてもらって厚真町に搬送したことで発災4日目に段ボールベッドが使えた(しかしそれまでは雑魚寝生活であったことから発災4日目に避難所での肺塞栓症発症が報じられている)。このことから災害用備蓄が無ければ発災後早期に環境の良い避難所を設営できないことは明らかである。

日本に求められる震災対策

 聞くところによれば、台湾の花蓮では民間会社やボランティアが発災前から市内に支援物資を倉庫に分散備蓄しておき、さらに密に連絡して災害時の方策を決めていたという。これらは、災害規模が大きい場合は全てを無償で行うことは難しいので国の関与が必要と思われるが、2、3日を凌ぐための方策として日本でも参考になると思われる(イタリアでも2、3日は地元で凌ぎ、その後は州や国の支援が入る)。

 一方、欧米では災害専門省庁(米国ではFEMA、ヨーロッパでは市民保護庁など)があって、平時に大規模分散備蓄の管理を行い、ボランティアとの協働や訓練を行っていることで早期から良い環境の避難所が運営できる。

 日本でも早急に①復興庁とは別の災害専門省庁の設立、②全国に災害支援物資の大規模分散備蓄を行う、③専門職や避難所運営を被災地で行う専門職能ボランティア団体(DMATのような)の設立と国の支援体制、この3つが必要であり、さらに災害関連法を基礎自治体中心の災害支援から県または規模によっては国(災害専門省庁)が中心となって支援できるように改正すべきである。

(『東京保険医新聞』2024年4月15日号掲載)