[声明]重要経済安保情報保護法の廃止を求める声明

公開日 2024年06月06日

2024年5月17日

 

         重要経済安保情報保護法の廃止を求める声明 

東京保険医協会
政策調査部長 吉田章

 

 政府は2024年2月27日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(以下、同法案)を閣議決定し、同法案は5月10日の参議院本会議で可決・成立した(以下、同法)。

 同法では、国家の安全保障に支障を及ぼす恐れのある経済分野の情報を「重要経済安保情報」に指定し、その取り扱いをセキュリティークリアランス(適性評価)により認められた者に限るほか、情報を漏洩または不正取得した者を5年以下の拘禁刑か500万円以下の罰金、またはその両方に処することを定める。以下、同法の問題点を指摘する。

 

(1)憲法9条が定める平和主義に反する

 3月19日に日本経済団体連合会と日本商工会議所が共同で発出した提言「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案の早期成立を求める」において、同法案の背景に「軍事転用可能な民生技術の獲得競争」の激化を挙げ、同法案を「企業が国際共同研究開発等に参加する機会を拡大することにも資する」と評価していることからもわかるように、適性評価制度を必要とする国際的な軍需産業への参入を想定した法律であることは明らかであり、憲法9条が定める平和主義に反する。

 

(2)基本的人権や医師の守秘義務の観点から疑問がある

 同法は、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野に限られる秘密保護法(2013年制定)を経済安保分野に拡大するものだ。秘密保護法による適性評価の対象者のほとんどは公務員だが、経済分野への拡大によって多くの民間人とその家族が新たに対象となり、①犯罪歴、②薬物の濫用、③精神疾患の有無、④飲酒の節度、⑤経済状況等、広範にわたる個人の機微情報が調査される。これらの情報を政府が収集・一元管理することは国民監視であり、プライバシー権(憲法13条)の観点で重大な懸念がある。特に②~④については、調査機関から医療機関に対して情報提供の要請が行われることが予想されるが、これは医療の根本原則である医師の守秘義務に反する。

適性評価は本人の同意に基づいて行われることとされているが、同意しないことによって対象者が不利益を被ることを防止する措置は定められていない。適性評価への不同意は勤務先で人事考課に影響する等、調査が事実上強制されるために思想信条の自由(憲法19条)を侵害する恐れがある。

 

(3)運用基準が閣議決定に委ねられており、国会審議を形骸化させている

 重要経済安保情報の範囲については同法に明示されず、具体的な運用基準は政府が閣議決定で定めるとしている。情報の漏洩に刑事罰が科される以上、指定の範囲が不明確であることは罪刑法定主義(憲法31条)に反する。法治国家であるならば、政府による恣意的な運用を許してはならない。閣議決定で定める運用基準に法の基幹部分を委ねることは、国会を唯一の立法機関と定める憲法41条に反する。重要経済安保情報の指定については、国会審議の過程で明確な基準を定めるべきだ。

 以上の理由から、当会は同法の廃止を求める。

以 上

 

重要経済安保情報保護法の廃止を求める声明[PDF:170KB]