[視点]経済秘密保護法 成立した人権侵害の濫用を監視しよう

公開日 2024年06月06日

経済秘密保護法
成立した人権侵害法の濫用を監視しよう

                      

秘密保護法対策弁護団 海渡  雄一

 2月末に国会に提案された経済秘密保護法案=重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案は、私たちの反対の声にもかかわらず、4月9日に衆院本会議で可決され、参議院での審議は、連休明けに参考人質疑が行われ、9日に内閣委員会で採決、10日に本会議で成立した。

 自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが賛成した。共産党、れいわ新選組、有志の会、社民党が反対した。立憲民主党は、修正案が受け容れられたとして法案に賛成した。

特定秘密保護法を改正手続きによらず拡大

 2013年に制定された秘密保護法は、防衛、外交、テロ、スパイの4分野の秘密指定しか想定しておらず、経済安全保障に関連する情報を特定秘密とすることは全く議論されていない。ところが法案は、経済安全保障に関連した情報の中には、秘密保護法上の特定秘密に相当する情報があるという前提に立っている。

 つまり、秘密保護法を「改正」しないまま、「秘密保護法の運用基準」の見直し=「閣議決定」だけで、秘密保護法を経済分野に大拡大しようとしているのだ。このような立法は、立憲主義の破壊行為である。

 政府原案では、衆参両院の情報監視審査会による監督や、国会への報告制度が適用されず、特定秘密の場合と比較しても、監督措置が脆弱であった。この点は、立憲民主党の修正案を政府が部分的に受け容れ、国会報告制度が盛り込まれ、情報監視審査会の関与も実現される可能性がある。しかし、この法案修正は根本的な問題点を解消したとは到底評価できない。

秘密指定の範囲は限定されていない

 秘密指定の対象となる情報は民間企業の保有する情報ではなく国の保有する情報だけだと政府は説明している。しかし、経済安全保障法自体が膨大な情報を政府に吸い上げる仕組みである。特定重要物質のサプライチェーンに関する情報、15分野の基幹インフラ企業のITシステム、AI、量子技術、宇宙開発などの先端技術分野の情報が国に集められたうえで秘密指定される仕組みであり、絞りがかけられているとは到底言えない。

欧米では既に廃止 周回遅れのアナクロ法

 今回の経済秘密保護法では重要経済安保関連情報であって漏洩によって著しい支障がある場合は特定秘密として扱い拘禁10年、支障がある場合には拘禁5年と二段階化し、秘密レベルを複層化する制度をとっている。

 ところが、日弁連の斎藤裕副会長は、コンフィデンシャル級の秘密指定は英仏ではすでに廃止され、アメリカの情報保全監察局(ISOO)による2022年レポートは、大統領あての提言でコンフィデンシャル級の秘密指定の廃止を提言していることを参考人公述のなかで明らかにした。法案の必要性の根幹にかかわる問題点が明らかになったといえる。

数十万人の民間技術者・大学研究者が身辺調査される

 特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象であった。経済秘密保護法では広範な民間人が対象となることが想定される。適性評価は各行政機関が実施するが、その調査は、内閣総理大臣が実施する。官民の技術者・研究者の、犯罪歴、薬物歴、健康、経済状態、飲酒の節度などの個人情報が調べられる。

 衆院で、国民民主党がハニートラップの危険性に関して性的行動が調査事項とされていないのは問題ではないかと高市大臣を追及した。高市大臣は法案12条2項1号の「重要経済基盤毀損活動に関係に関する事項」に該当し、調査できると明確に答弁した。

 ところが、この点を、参議院の内閣委員会で福島みずほ議員が追及すると、防衛省は、性的行動の調査は行わないが特定有害活動との関係に関する事項の場合は適性評価において考慮されうると答弁した。さらに、性的行動が調べられるなら、政治活動、市民運動、労働組合活動なども調べられるのではないかとの質問に対して、政府委員は、どのような事項について調査しているかも、敵につけ入る隙を与えるので答えられないと答弁した。この点は、2013年に特定秘密保護法が成立した後の運用基準では、「評価対象者の思想、信条及び信教並びに適法な政治活動、市民活動及び労働組合の活動について調査してはならない。」と定められていた。政府委員の頭からは、自らの定めたこの運用基準すら飛んでしまっていることが明らかだ。

 適性評価の実施には、本人の同意を得るとされるが、家族の同意は不要だ。仮に同意しなければ、研究開発の最前線から外され、人事考課・給与査定で不利益を受ける可能性は否定できない。そして、適性評価が適切におこなわれているか、独立の立場で監督する第三者機関は全くない。

戦争への道を開く悪法にノーを

 悪法を止めるための活動は、仮に制定を止められなくとも、反対運動が盛り上がることによって、政府による法の濫用に対する歯止めとなる。野党の中核が、反対の旗を掲げることをあきらめてしまうと、問題のある法案が成立したことを、市民に知らせることも困難になる。

 この法と経済安保をめぐる対立の先には日本と中国との本物の戦争が待っている。この法律の成立に手を貸した人たちは、この戦争の悲劇への道を開いた責任があることを自覚してほしい。ここで黙ったら、次は戦争反対ということすらできなくなる。私たちは、成立した経済秘密保護法が真の悪法として猛威を振るうことのないよう、今後予定される運用基準の制定の過程も、市民の立場で継続して監視を続けたい。

【コラム】
経済秘密保護法の概要
①経済安保に関連した広範な情報( 重要経済安保情報と呼ぶ) を政府が収集し、これを秘密に指定することができるようにすること( 法案3条)。
②このような秘密を漏洩したものと取得した第三者を、重要度の高い情報( 安全保障に著しい支障がある場合) については、特定秘密保護法と同等の最高刑拘禁10年の刑に、相対的に重要度の高くない情報( 安全保障に支障がある場合)については、最高刑5年の刑に処すこと( 法案3条と法案22条以下を合わせ読む)。
③重要経済安保情報を取り扱う業務は、適性評価により、重要経済安保情報を漏洩する恐れのないと認められたものに制限すること( 法案11条)。
④行政機関の長は、重要経済安保情報を取り扱う民間の企業の従業員ら、大学・研究機関の研究者らに対しても、内閣総理大臣による調査の結果に基づき、漏洩の恐れがないことについての評価( 適性評価=セキュリティ・クリアランス)を、特定秘密保護法のもとで主として公務員に対して実施されてきた適性評価と統一的なシステムを構築して実施すること( 法案12条)。

(『東京保険医新聞』2024年5月25日号掲載)