[視点]「地方自治法改正案」の問題点 憲法を骨抜きにし戦争体制に自治体を組み込む危険

公開日 2024年06月22日

「地方自治法改正案」の問題点
憲法を骨抜きにし戦争体制に自治体を組み込む危険

日本自治体労働組合総連合 中央執行委員 内田  みどり

 

 5月30日の衆議院本会議において「地方自治法改正案」が可決されました。同7日に衆院本会議で審議入りし、衆院総務委員会で参考人質疑を含め4回の審議で採決し、衆院を通過、参議院に送付されました。

 本法案は、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」を理由に国の自治体に対する「指示権」を拡大する「国と地方公共団体との関係等の特例」(14章)とデジタル化に対応する規定などを追加するものです。

憲法92条の「地方自治の本旨」の侵害

 法案の最大の問題は、国が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と判断すれば、自治体に対して「指示権」を発動できる、つまり自治体を国に従属させる仕組みを規定している点です。

 政府は提案にあたって「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係を明確化するため」に「国と地方自治体との関係等の特例の創設」などを行うと説明しました。しかし、日本国憲法は、戦前の自治体が侵略戦争遂行の一翼を担わされた反省から、独立した章(第8章)を設けて「地方自治」を明記し、自立した地方自治体と住民の政治参加(団体自治と住民自治)の権利を保障しています。憲法上、国と地方は対等平等の位置づけです。「特例」とはいえ、地方行政に国が「指示権」を行使できるとなれば、憲法が保障した地方自治を否定し破壊することになります。

 衆院総務委員会における審議では、野党国会議員の追及により法案がはらむ重大な問題が次々と明らかになりました。

立法事実に明確な根拠なし 

 政府は、「指示」を必要とする具体的な事例として2020年2月に横浜港に寄港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での新型コロナウイルス感染症拡大への対応をあげ、感染症法などの「個別法が想定しない事態」に対応するために「指示権」を設けようとしています。

 しかし実際は、患者の受け入れにあたって、厚生労働省の協力要請を受けて神奈川県や周辺自治体また医療機関が協力して、受け入れ病院の選定や搬送の調整を行っています。国の「指示」を必要とする立法事実に明確な根拠がないことが審議でも指摘されました。

 また、現在の能登半島地震の被災地へ、全国から多くの自治体が要請に協力して支援派遣が行われていることも確認され、災害時においても国と自治体との協力ベースでの対応がなされています。

「指示権」恣意的運用の危険

 では、どのような「事態」で「指示権」の発動が想定されるのでしょうか。法案には「大規模な災害や感染症のまん延その他」とあり、災害や感染症は例示されていますが「その他」とはいったい何を示すのか、また「個別法が想定しない事態」とはどんな事態なのか曖昧なままです。委員会の審議で政府は「特定の事態を念頭に置いていない」と答弁していましたが、一方で、集団的自衛権の発動要件である存立危機事態を定めた「事態対処法」も除外されないことが明らかになりました。

 そして「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」は「発生するおそれ」のある場合でも「指示権」が発動可能となっています。さらに、各大臣が「特に必要と認めるとき」、閣議決定で発動でき、国会への事後報告を規定する修正はなされましたが、事前の国会承認は不要で自治体の意見聴取は努力義務とされています。国会を軽視し、自治体の自立性を無視するうえに、時の政権による恣意的運用、濫用ができる仕組みとなっており、民主主義、立憲主義に背を向けるものです。

自治体を戦争体制に組み込む狙い

 いま、沖縄県の辺野古新基地が県・県民の反対の意思を踏みにじり、国による代執行で建設が強行されています。法案が成立すれば、国の指示に従わせる強権的なやり方が全国に広がる危険があります。明文改憲による緊急事態条項創設を先取りし、地方自治を破壊して国が行う戦争体制に自治体を組み込むものと言えます。ここに法案の本質的な狙いがうかがえます。

 特に今国会では、兵器の共同開発を推進するために秘密保全体制を整備する経済秘密保護法や、陸海空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」設置を盛り込んだ改定防衛省設置法などが成立し、「戦争国家」づくりが進められています。災害や感染症に乗じて、法律の改定で日本国憲法を骨抜きにしようとする策動も見てとれます。

 法案は参院での審議を経て6月中旬にも成立する見通しとの報道があります。しかし、自治労連は6月からも引き続き法案の問題を広く知らせ、廃案を目指して全力を尽くしているところです。

 

(『東京保険医新聞』2024年6月15日号掲載)