公開日 2024年09月18日
井上 博文
(井上博文クリニック/調布市)
10月から長期収載医薬品が選定療養費制度の対象になる見込みだ。平たく言えば、特許が切れて後発医薬品が発売され、ある程度後発品の普及が進んだ先発品を患者の希望で処方したら、先発品と後発品の薬価差の一部を、希望した患者の自己負担にするという制度だ。
制度上の問題や社会保障のあり方としての問題は、多くの方々が既に指摘されているので、私は処方する立場の医師や処方を受ける患者から見た、医療現場での具体的な問題点について述べたい。
患者の希望で処方した場合、ということだが、「患者の希望」の趣旨は千差万別である。本制度ではその選別を医師に丸投げしており、医療現場の負担がさらに増すのは間違いない。何となく先発品を希望される方も多いが、この「何となく」には後発品への不信感や不安感が含まれていることが圧倒的に多い。過去に後発品で副作用を経験している方だけでなく、様々な情報からそう感じている方もいる。たとえ具体的な経験を伴わない感覚的な不安感であっても、患者に不安を抱かせたままの医療を強要するかのように、後発品に金銭で誘導するのが正しい医療だろうか。厚労省からすれば「そこは医師の皆様が丁寧に問診や説明をして的確に判断していただきたい」となるのだろうが、問診や患者への説明は病気の診断治療のために行うものであって、医療経済のために行うものではない。
国は今まで「先発品と後発品は同等である」として、やみくもに後発品の普及を推奨してきた。にもかかわらず、今回「医療上必要がある場合は先発品を処方しても選定療養の対象外にする」としており、この時点で先発品と後発品が「同等」ではないことを自ら認めているに等しい。それならば、選定療養費の制度を持ち込むのではなく、かねてから協会が主張しているように、特許が切れた先発品の薬価を後発品と「同等」にすれば良いだけのことである。
(『東京保険医新聞』2024年9月5号掲載)