公開日 2025年03月05日
多摩地域のPFAS汚染問題について
立川相互ふれあいクリニック 青木 克明
1横田基地からのPFAS汚染水流出事故
2024年10月3日に北関東防衛局は米側からの情報として「8月30日の豪雨で横田基地の消火訓練場の貯水池から約4万7千LのPFASを含む水があふれて雨水溝に流入し基地外へ流出した可能性が高い」と東京都などに伝えた。
PFASの漏出事故は2010〜23年に計8回発生しているが基地外への流出を認めたのは初である。汚染水は下水道に入り多摩川へ流入したことになる。
日米地位協定環境補足協定により12月20日に国・都および基地周辺6自治体が視察に入った。米軍は以下の説明を行ったが写真撮影は許可しなかった。
◦排水溝を通らずに基地外へ流れた可能性は限りなく低い
◦10月末までに約15万Lの水を抜き取り焼却処分したので今後漏出の恐れは低い
◦貯水池のPFOS等の値は2023年11月調査時に1620/Lであり、それ以降PFOS等が追加されるような訓練はしていないのでサンプル採取は行わない
2024年6月のNHKクローズアップ現代では消火訓練場側の畑の土壌から13万/㎏ものPFASが検出されたと報道している。貯水池や基地内外の土壌のPFAS調査をするとともに貯水地内のPFOS汚染水はすべて除去すべきである。
2水道水PFAS検査
2024年11月に国交省・環境省は水道におけるPFOS・PFOAに関する調査結果を発表した。
検査を実施した事業数は2020年度の466から2024年度は1745に増加し、PFOS・PFOA合計で暫定目標値50/Lを越えたのは11から0になっていた。50/L以下の水道水が確保されている給水人口の割合は98・2%となったが、160万人が利用している給水人口5千人以下の簡易水道は費用負担、規制がないことなどから53・5%が検査をしていない。すべての飲み水でのPFAS検査を実施するべきである。
米国は2016年に水道水の生涯健康勧告値をPFOS+PFOA70/Lとしたが2024年4月には疫学調査を基に第1種飲料水規制濃度をPFOS ・PFOA各4/Lに決定している。
日本は2020年に動物実験を基に公共用水域および地下水における PFOS +PFOA暫定指針値50/Lとしており、米国に倣って規制強化することが期待されたが、2024年6月に食品安全委員会が決めた飲食物摂取許容量「1日当たりPFOS・PFOA各20/㎏体重」に沿って12月に暫定指針値50/Lを規制を伴う水質基準項目に決定した。
東京都水道局の給水栓水で今年度PFOS・PFOA合計5/Lを越えたのは23区で47分の3、多摩地域で131分の7、最高は瑞穂町箱根ヶ崎浄水所の14/Lだった。PFAS濃度の高い地下水を混合していた時期に比べて改善している。
日本でも米国並みのPFOS・PFOA各4/Lにすることは可能であり実施すべきである。
3多摩地域のPFAS血液検査
「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」 は京都大学原田浩二准教授と地域の医療機関の協力で、2022年11月から23年6月にかけて多摩地域30自治体で791人のPFAS血液検査を行った。
4PFAS合計の平均値は22/で環境省の2021年調査の平均値8・7/の2・5倍だった。米国科学アカデミーが腎臓癌、脂質異常症、甲状腺機能低下症などの精査を勧めている20/以上だった人の割合は46%で、国分寺は93%、立川は74%と特に高かった。国・都・市にPFAS検査の実施を求めているが、健康影響の証拠がないとして実現していない。
2024年5月から東京民医連病体生理研究所が全国の医療機関と自治体を対象にPFAS検査を開始して1月までに1000件を越えている(※)。結果は本人と医療機関に報告される。健生会の12診療所では全額自己負担となるが1月末までに252件実施している。
4PFAS合計の平均値は15・2/で、20/を越えた方は50人で22%だった。
自治体別の平均値は国分寺23・7、昭島14・8、 23区14・1 、立川11・4、他県10・0であり、多摩地域内外での差は認められない。行政による全国的な調査が望まれる。
2022、23年の集団検査との比較では昭島80%、国分寺53%、立川40%だった。昭島は深層地下水(PFAS水質検査2024年度5・6~7・6/L) 給水を継続しており血液検査でも集団検査との差が少ない。血中PFAS濃度は新たな取り込みがなければ5年で半減すると言われており、約1年半前に集団検査を受けていた4名は平均68%に低下していた。立川・国分寺の低下はそれ以上であり、水道水の改善以外の要因が考えられる。
立川相互ふれあいクリニックでは予約制のPFAS外来を開設しており1月末までに76人が受診した。受診の動機はPFAS検査結果が20以上だった、PFASとの関連がいわれている腎臓癌・乳癌・潰瘍性大腸炎・脂質異常症・甲状腺疾患で治療中、横田基地に近い畑で野菜を作って食べているなどであった。診察では現在の健康状態を確認し、腎臓癌の早期発見に有効な腹部エコー検査を1年以内に受けていなければお勧めして14人に受けていただいたが、幸い悪性所見はなかった。
受診者には癌を含む定期的な健診、2年に1度の腹部エコーを受け、病気の適切な治療を継続し、運動、偏りのない食事、社会活動など健康増進活動をおこなって3年をめどにPFAS再検査をされることをお勧めしている。
健康状態の確認のために検査を希望する都民は多い。多くの会員の皆様がPFAS検査実施施設になってくださることをお願いしたい。
※検査の問い合わせ先はこちら Email:kankyo-h@byotai.or.jp ☎ 03(3956)4101 |
(『東京保険医新聞』2025年2月25日号掲載)