公開日 2025年04月04日
支援活動を通じて見えたパレスチナ・ガザの現状
北海道パレスチナ医療奉仕団・団長 猫塚 義夫
2023年10月7日、イスラエルによるガザへの軍事侵攻が始まり16カ月が経ちました。歴史的に、パレスチナの地では1948年のイスラエルによる侵略的建国と2007年からガザの完全封鎖が行われています。さらに、2018年12月からの大規模軍事侵攻をはじめとしてこれまで5度にわたる殺戮が繰り返されてきました。以来、ガザの230万人の住民は「世界最大の天井のない監獄」に隔離され、16年間定期的に大規模な軍事侵攻を受けてきました。
今回のガザの事態は質量ともにこれまでにない厳しさであり、既に6・4万人の死者と16万人を超えるけが人を出し「絶滅収容所」と化しました。
また、医療施設や学校がほとんど破壊され、慢性的な飢餓状態と不衛生な環境状態が進行しています。これまでの糞尿の匂いが死臭になってきたとの国連報告があるほどです。
イスラエルによる支援活動の拒否・妨害
私たちは、2009年に行われたガザへのイスラエルの軍事侵攻以来パレスチナ・ガザへの「医療・子ども支援活動」を行ってきました。2024年11~12月に第16次の支援活動を実施しています。
私たちの活動の根本理念は日本国憲法前文に謳われている「平和的生存権」です。その活動基準は非武装・非暴力であり、中心スローガンは「人間の命と尊厳を守る」であります。この基本姿勢は、私たちの活動がパレスチナ問題を基軸にしながらも医療・教育や社会保障、原発・環境問題、貧困やいじめ、ジェンダーや人権問題、アイヌなどの先住民族や民族差別などの課題で多くの団体・個人と力を合わせることを可能としています。
ガザへの入域が困難な今、私たちの活動は、東エルサレムとヨルダン川西岸にならざるを得ません。しかし、その地域でもイスラエル軍の弾圧と入植者の暴力で200人の子どもを含めた800人が虐殺され、5000人のけが人が発生し、1万人が逮捕・拘束されているのです。また、イスラエルはパレスチナ支援をかかげる国際NGOの入国を厳しく制限しています。私たちのメンバーのうち医師と教員の2名が今後5年間の入国を拒否されました。これまで入国拒否は欧州のNGOに適用されてきましたが、今度はアジア・日本からの私たちにも及んできたのです。
イスラエルは、今年1月30日からUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の国内での活動を禁止し、米国は拠出金も再度凍結することになりました。
この度、イスラエルの有力な後ろ盾となるトランプ米大統領の再登場により、パレスチナ難民の医療・教育・生活と労働を支えてきたUNRWAの活動に財政的にも大きな困難がもたらされようとしています。
私たちは、2025年1月札幌市議会にガザ地区の停戦とUNRWAの活動禁止の解除を求める意見書の採択を他団体と共同で申し入れました。その結果2月13日に「パレスチナでの停戦合意の完全履行等を求める決議」として全会一致で採択され、他の地方自治体への申し入れを訴えるものです。
問題解決には二国家共存が必要
2025年1月19日にハマスとイスラエルは6週間の「停戦合意」が交わされ、少なからぬ住民の帰宅が始まりました。しかし、戻った先は米国に支援されたイスラエルにとことん破壊された瓦礫の山でした(住宅の80%が完全破壊)。その下から新たに遺体も発見され、仮に現在の「ガラスの停戦合意」が「恒久停戦」へと進んでもガザ地区の再建には、10~15年の年月と莫大な費用が必要となるものです。
その後、イスラエルは「恒久停戦」となる第2段階への移行を実行せず、水・食料・人道支援物質のガザ内への搬入も困難にしています。
さらに、2025年2月4日トランプ米大統領が突然アメリカによる「ガザ所有」発言がなされました。これには、パレスチナ・ガザ、アラブ諸国をはじめ国連や世界中から批判が湧き起こっています。イスラエルと結託したトランプ米大統領による妄動は、強制移住を禁じたジュネーブ条約など国際法違反は明確にもかかわらず、民族浄化を進めるものにほかなりません。
トランプ米大統領は、1月の就任以来、グリーンランド領有やカナダのアメリカへの統合、パナマ運河の所有などの発言を繰り返しており、「ビジネスマン」を装った帝国主義者ではないかと思えるほどです。
こうしたトランプの助けを受けながら、イスラエル・ネタニヤフ極右政権は、パレスチナのみならず、レバノン、シリア、ヨルダンまでもユダヤの土地であるという「大ユダヤ主義」に基づく「入植型植民地主義」を基本にして「ユダヤの約束された地」の拡大を目指しています。こうした帝国主義的戦争国家を批判して、イスラエルではすでに50万人が国を捨てて西欧への流出・移住が続いています。
そもそもパレスチナ・イスラエル問題の解決には二国家共存が必要であり、その前提となる民族自決の原理に基づく、パレスチナの国家承認が必要です。
石破政権には、平和主義に貫かれている日本国憲法とそれに基づく平和外交を展開し、国際平和への貢献が今こそ求められていると考えます。
私たちは、今年も現地での「第17次パレスチナ医療・子ども支援活動」を計画しています。皆様のご支援を心からお願いする次第です。
西岸・ラマラ郊外・ベイトウーレ村での子どもたちだけの特別診療(2024年12月)
西岸で最も厳しいとされるイスラエルによるカランディア検問所(2024年12月)
エルサレム・旧市街地でパレスチナ人を監視するイスラエル兵(2024年12月)
(『東京保険医新聞』2025年3月25日号掲載)