公開日 2025年04月04日
2016年、都内の病院で乳腺手術を担当した医師が、執刀後に女性患者にわいせつ行為をしたとして準強制わいせつ罪で逮捕・起訴された事件の差戻審で、東京高等裁判所は3月12日、第一審判決に対する検察側の控訴を棄却し、外科医師を無罪とする判決を言い渡した。
8年の歳月を経て、第二審の東京高等裁判所でも無罪を勝ち取った。
3月12日、東京高等裁判所前で撮影
遅すぎる無罪判決
第一審の東京地方裁判所は2019年2月20日、無罪判決を言い渡した。判決は、術後せん妄の可能性を否定できないとし、警視庁科学捜査研究所(科捜研)の鑑定結果(アミラーゼ鑑定およびDNA定量検査)について、科学的な証拠価値をほぼ全面的に否定した。
しかし2020年7月13日の第二審判決で、東京高等裁判所は「女性患者の証言は信用できる」として第一審判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を言い渡した。第二審判決は、せん妄の有無について、「せん妄の専門家ではない」と自ら認める検察側証人による独自見解を一方的に採用し、第一審で証拠価値を否定された科捜研の鑑定についても、新たな証拠が示されることがないまま「信用性を否定されない」との判断を示す等、多くの問題を残した。「一審のような丁寧な判決ではなく、根拠が示されず、論理に矛盾がある、何の考慮もない判決だ」と批判の声が多く上がった。同判決を不服として外科医師側は最高裁に上告した。
最高裁判所は2022年2月18日の判決で、第二審判決を破棄し、東京高等裁判所への差し戻しを命じた。2024年10月に第二回控訴審が開始された。
今回の判決では、「本件アミラーゼ鑑定及び本件定量検査にはA証言(編注:女性患者の証言)を支えるだけの十分な証明力があるとはいえないとした原判決の判断に誤りはない」とし、「その他の所論を検討しても、本件公訴事実に合理的な疑いを差し挟む余地があり、本件公訴事実を認めることはできないとした原判決に事実の誤認は認められない」と第一審判決を概ね採用した。
二度と同じ事件を繰り返さないために
第一審判決後に検察が控訴しなければ、また一回目の控訴審で適切な判断がなされていれば、裁判はここまで長期化することはなかった。
同日に開かれた弁護団の記者会見および報告集会で、医師は「長く辛い日々だった」「生活や仕事、家族を奪われたことについて、警察と検察に憤りを感じる」と述べ、医療者・患者双方が守られる仕組みが必要だと訴えた。弁護団は「科捜研の閉ざされた検査室でいまも悪しき慣行が続いている」「裁判所は、虚心坦懐に真実と向き合う熱意や覚悟が欠けている」と批判した。また、医師は職業上、人体との接触が避けられない。弁護団は、同様の事例が今後も形を変えて繰り返されることへの強い危惧を示した。
東京保険医協会では検察の上告断念を求める署名に協力し、会員に呼びかけた。上告期限があるため、短期間の取り組みであったが、多くの会員から協力いただいた。協会は、日常の医療行為が安心して提供でき、医師が委縮しないよう、ひいては患者の生命や健康に損害を及ぼさないよう、今後も活動していく。
※署名に協力いただいた会員の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。
弁護団による記者会見の様子
(『東京保険医新聞』2025年3月25日号掲載)