公開日 2025年04月24日
[視点]気候危機・原発災害に向き合わない 第7次エネルギー計画
FoE Japan 満田 夏花・深草 亜悠美
2025年2月、第7次エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画、GX2040ビジョンが閣議決定された。
東電福島原発事故の影響は今も続き、収束からは程遠い。だが、これら日本のエネルギー政策の方向性を定める主要な政策は、それぞれ原発や火力などの大規模集中型の電源による電力の大量生産・大量消費の構造をそのまま維持する内容だった。また、日々深刻になる気候危機に対応する内容にもなっていない。火力や原発の維持は、気候危機や核のごみといった負の遺産のつけを将来世代にまわすこととなる。
エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の指針となっており、エネルギー政策基本法に基づき3年ごとに見直しが行われている。今回は2024年から経済産業省資源エネルギー庁の審議会等で議論が行われ、年末年始にかけて市民の意見を問うパブリックコメントが実施された。過去最多となる4万件以上の意見が寄せられたが、政府はそれらを計画に反映させることはなかった。
福島第一原発事故の教訓を蔑ろに、負担は国民に
第7次エネルギー基本計画は原発回帰が顕著な内容となった。
東電福島第一原発事故以降盛り込まれていた「原子力依存度の可能な限りの低減」という言葉は削除され、「最大限の活用」とした。2040年度の電源構成に占める原発の割合を「2割程度」としているが、これは、既存原発の大半の30基以上を再稼働させる想定である。この中には、直下の活断層が認定され、原子力規制委員会が再稼働を認めなかった敦賀原発や、能登半島地震で被災した志賀原発も含まれる。
さらにエネルギー基本計画は「投資額が巨額になることなどから事業者が新たな投資を躊躇する恐れがある」ため、公的な枠組みでのファイナンス支援を検討するとしている。民間金融機関等が取り切れないリスクについて、「公的な信用補完の活用とともに、政府の信用力を活用した融資等を検討する」ことも明記した。これは本来原子力事業者や投資家が負うべきリスクとコストを、将来世代も含めた国民に転嫁することを意味する。
データセンターによる電力需要の増加
新たなエネルギー基本計画は、電力需要の増加を特徴としている。特に、データセンター建設などデジタル化による電力需要増加が、繰り返し強調されている。前回の第6次エネルギー基本計画では記述されていたデジタル化によるエネルギー効率改善については削除された。
また、最も重要と言っても過言ではない省エネルギーについても、エネルギー需要をどこまで削減しようとしているのか書かれておらず、個別施策についても抽象的な書き方にとどまっている。
気候変動政策としての問題点
気候危機は年々深刻化し、日本でも多くの人の生活や命が脅かされている。早期の大幅な温室効果ガスの削減が急務だ。先進国である日本には高い削減目標の設定が求められているが、エネルギー基本計画と並行して議論された日本の新たな目標は2013年度比で2035年度60パーセント削減にとどまった。
また、エネルギー基本計画に脱化石燃料の方針は示されず、水素・アンモニア・炭素回収貯留(CCS)といった、まやかしの「脱炭素」政策推進が目立つ。水素・アンモニアは、燃焼の際に二酸化炭素を排出しないことから、カーボンニュートラル燃料とされている。水素をガス火力に、アンモニアを石炭火力発電に混焼させることで排出を抑制することができるというのが政府や産業界のロジックだが、現在世界で製造されている水素・アンモニアはほとんどが化石燃料から製造されている。当面は化石燃料由来・海外製造の水素・アンモニアを輸入して利用する計画であり、温室効果ガス排出量は実質的に増えることになる。
CCSは、炭素を工場や発電所から回収して地中に埋める技術を指す。日本政府はCCS技術を活用し、2050年までに年間1・2~2・4億トンを貯留する目標を立てているが、これは現在の日本の年間温室効果ガス排出量の1~2割に当たる膨大な量である。
非民主的な策定プロセス
エネルギー基本計画を議論した審議会の構成は、化石燃料や原子力、産業界につながりのある委員が多数を占めており、気候変動、再エネ、自治体や地域、原発事故などに関わる専門家や当事者、環境NGO、そして若い世代も含めた議論が行われることはなかった。一部の産業界の利益を守ろうとする人たちによる閉ざされた議論のみで、市民参加も国民的議論もなかった。
年末に集中させて一気に3つの政策へのパブリックコメントが募集されたのみだった。また、集まったパブリックコメントで原発反対の声が強かったにもかかわらず「意見の多寡は関係ない」として最終的な計画に反映されることはなかった。
今後に向けて
エネルギー・気候政策は私たちの未来を左右する。多様な立場の市民の参加が欠かせない。また、地域における草の根の運動や自治体の動きも重要だ。現在の政策決定においては、一部の産業界の声が反映され、環境NGOや市民の声は反映されていない。気候危機や原発の抱えるリスクや矛盾、核のごみの問題などを直視し、現在のエネルギー多消費型の社会構造を変えていくことを粘り強く訴えていくことが重要だ。
今年の夏には参議院選挙が控えている。各候補者・政党がより野心的な気候変動目標を持つこと、原発や火力に頼らないエネルギーシステムを推進することをよりいっそう求めていく必要がある。
(『東京保険医新聞』2025年4月15日号掲載)