[視点]消費税は社会保障に使われていない

公開日 2025年06月02日

消費税は社会保障に使われていない

                     

元・静岡大学教授、税理士  湖東  京至

 

1消費税法第一条2項のごまかし 

 歴代自民党政権は「消費税は全額社会保障費に使われている」と宣伝してきた。石破首相は「消費税を減税すれば、社会保障の安定的な財源が確保されない」と述べているが、本当にそうだろうか。 

 たしかに、消費税法第一条2項には「消費税は…医療費及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」と書いてある。この条文は2012年8月、野田民主党政権下に書き加えられたもの。当時の民主党は消費税の税率を5%から10%に引き上げようとしており、国民を納得させようとしてこんな条文を書き加えたのだ。 

 だが、これほどおかしな条文はない。なぜなら、消費税は社会保障に限定して使われる目的税ではなく、法人税、所得税、酒税などと一緒に一般財源として使われているからだ。その証拠は政府自身が毎年発表する、「一般会計予算歳出・歳入の構成」を見れば一目瞭然だ(下円グラフ参照)。円グラフを見ればわかるように、右に一般会計歳入があり、所得税、法人税、消費税等の歳入合計が112兆5717億円となっている。この歳入合計を左側の円グラフの歳出、社会保障費、防衛関係費、公共事業費、国債費等々に充てているのだ。つまり、消費税は社会保障費だけに使われておらず、防衛関係費、公共事業費、国債費等々にも使われているのだ。「消費税は全額社会保障に使われている」という言い分は嘘八百だということがわかる。 

 にもかかわらず、歴代政権は「消費税を上げないと社会保障が賄えない」とか、「消費税を減税したら年金が下がる」などと宣伝してきた。残念ながら、国民の中にも「消費税がないと社会保障が維持できないのではないか」という人がたくさんいる。 

 

2社会保障費予算を賄ってきた財源の第一位は国債 

 では、社会保障予算を賄ってきた財源は何なのか。 

 円グラフで見たように、所得税、法人税、消費税、国債収入等々全体で社会保障予算等を賄ってきたのであるが、その順位はどうなっているのだろうか。消費税導入以後の歳入順位を見れば表1のとおりである。 この表からは、所得税・法人税・消費税の順位は税収の順位によって変わること、1997年からは1位が国債収入であり、借金によって社会保障予算の大部分が賄われてきたことがわかる。消費税が社会保障予算の全てを賄ったことは一度もない。 

 法人税が順位を下げてきたのは、租税特別措置による大企業に対する税の軽減と税率引き下げによる。所得税の税収減は株や配当金に対する課税、いわゆる金融資産課税の減税による。代わりに消費税は税率引き上げにより順位を上げてきている。この表から言えることは、消費税がなくても法人税、所得税、相続税、酒税、たばこ税など他の税収を引き上げれば、社会保障予算を賄えるということである。

 

3社会保障給付を支える主要な財源は国民負担の社会保険料

 年金、医療、介護など、私たちに対する社会保障給付の財源は、国民が払う社会保険料と国・地方自治体が払う公費で賄われている。消費税は公費負担のうち国が払う分の一部を占めているにすぎない。消費税が社会保障給付にほとんど使われていないことを以下に示す。 

 表2を見てみよう。消費税が8%から10%に引き上げられた2018年と2020年を比べると、社会保障給付は121・5兆円から126・8兆円に5・3兆円増えている。公費負担は50・4兆円から50・4兆円とまったく増えていないにもかかわらず、国民負担は72・5兆円から73・6兆円に1・1兆円増えている。つまり消費税が増税されても、社会保障給付に充てられず、5・3兆円増えた給付を賄っているのは、国民の社会保険料などの負担増と過去に蓄えた余剰金である。つまり、消費税が増税されても社会保障給付に回らず、国民(家計)の負担増によって賄われたことを示している。

 年金支給額が物価上昇に追い付くほど引き上げられないことや、窓口負担の増加など、社会保障給付は年々貧弱になってきている。一方、健康保険料、年金保険料、介護保険料などが年々高くなっている。これは公費負担(消費税)が給付に回っておらず、国民自身の負担増で給付の増加を賄っており、まさに「公助」でなく「自助」であることを示している。

 では、消費税で増えた税収はどこに消えたのだろうか。その大半は、法人税の減税と、所得税(金融資産)の減税に消えたといってよい。現政権の下では仮に消費税を増税しても社会保障給付に回らない。よって、「消費税を増税しないと社会保障費は賄えない」とか、「少子化対策には広く国民みんなが負担する消費税増税がよい」という主張は誤りである。

 

(『東京保険医新聞』2025年5月25日号掲載)