公開日 2025年06月27日
左から、中村洋一氏、服部万里子氏、冨田眞紀子氏、水山和之氏(6月7日、協会セミナールーム)
地域医療部と病院有床診部は6月7日、「高齢者はどこで最期を迎えればよいのか」をテーマにシンポジウムを開催し、会場・Webで69人が参加した。服部万里子氏(日本ケアマネジメント学会理事)、冨田眞紀子氏(NPO法人なかの里を紡ぐ会理事長)、中村洋一氏(中村診療所/協会地域医療部長)、水山和之氏(明和病院院長/協会病院有床診部長)の4人をシンポジストに招き、それぞれの立場からの報告をもとに討論を行った。
患者が希望する自宅での看取りを実現するために
服部氏は、患者が希望する看取りの場が現実と乖離していることをデータで示した。高齢者が自宅で最期を迎えることには、「家族と過ごせる」「慣れ親しんだ場所での安心感」「自由な生活ができる」といった意味があり、厚労省の調査では、国民の43・8%が最期を迎えたい場所について「自宅」と回答している。
しかし、実際の看取りの場は病院が67・8%、自宅が15・6%、老人ホーム等が9・1%であり、患者の希望と差がある。自宅で最期を迎える際の課題として「医療サポートの不足」「家族の負担」「急変時の対応」を挙げ、ケアマネジャーの立場からの対応策として「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の活用による本人・家族の希望に沿った支援」「専門多職種との信頼関係の構築と連携」の重要性を説いた。
中村氏は、在宅療養の高齢者が入所・入院となる要因として、家族の介護力不足、認知症に伴うBPSD(行動・心理症状)等のリスク、急変時の対応への不安等を挙げた。その上で、自宅での看取りを可能にする条件として、家族の理解と協力、在宅医療・介護体制の構築、本人と関係多職種の密接なコミュニケーションを挙げ、家族介護の負担軽減のための介護給付費増額、レスパイト事業の拡充、自宅看取りを診療報酬で優遇する措置等の政策の必要性を訴えた。
運動体としてのホームホスピス
冨田氏は、終末期の居場所の選択肢として、ホームホスピスを提案した。ホームホスピスは、民家をそのまま活用するなど「家」としての居住環境でありながら、高齢や病気のために自立した生活が難しくなった人が、ケアチームの緻密なサポートを受けながら少人数で暮らしていく「とも暮らし」の場だ。冨田氏はホームホスピスを運営する立場から、利用者の一人ひとりの尊厳を守る理念と実際のケアの取り組みを紹介した上で、理念を社会に発信し、ホームホスピスの意義を問いたいと強調した。
病院経営は危機的状況 地域医療崩壊の懸念も
水山氏は、民間病院の立場から、今後の高齢者医療に対する懸念を表明した。急激な物価高騰、2024年度の診療報酬実質引き下げ、低診療報酬に伴う人材不足等により、病院経営は危機的な状況に追い込まれている。根本的な原因となっている「社会保障関係費の伸びを高齢化による自然増の範囲内に抑制する」という政府方針を変えなければ、病院経営が破綻し地域医療が崩壊しかねない状況であると報告した。
フロア討論では、日頃の活動においてACPをどのように取り入れているか、個々人の経済的な制約により受けられる医療・介護に差が生まれる問題についてどのように考えるか、認知症の人に対する身体抑制と尊厳の問題等について議論が交わされた。
「ACPについては、患者の家族と医療者側が持っている情報の非対称性を意識し、時間をかけて説明した上で意思を確認している」「経済的状況を含む利用者の状況に応じた最適な方策を模索することが重要だ」「身体抑制をしないためには、BPSDが起こる原因を取り除く努力をすることが最優先だ」等の意見が出された。
(『東京保険医新聞』2025年6月25日号掲載)