公開日 2025年10月23日
心から保険医協会への入会をお薦めします

内田 俊也(神田西口うちだ内科/千代田区)
新しく開業された先生方へ
一にも二にも保険医協会に入会することに勝ることはありません。なぜかは実際の臨床業務が始まってみるとすぐにわかるでしょう。
開業するということは単に目の前の患者さんに寄り添って診療をすればいいだけではありません。高い開業費で内装工事をし、スタッフを集め、集患のための広告宣伝を行えば、その支出に匹敵する収入を得ないといけないからです。特に、診療報酬は日本のどこで開業しようが、同じ診療行為に対しては同じ報酬しか得られないのです。
複雑な診療報酬の仕組み 頼れるのは保険医協会
その診療報酬の仕組みには複雑なお作法があり、患者さんのために一生懸命に検査し治療薬を出せばいいというものではありません。
いくつかの例を挙げてみます。降圧薬の使いかたでも、今一番使用されているカルシウム拮抗薬とARBの配合錠をいきなり使うと査定されます。最初は単剤で投与することが求められています。糖尿病の患者さんにインスリンを導入して自己注射指導した場合の在宅自己注射指導管理料は初診からは算定できません。外来などで2回以上指導を行った場合に算定するとされており、他院で導入されているか、入院で導入され退院してからの継続でないと再診時からしか算定できないのです。肥満型糖尿病に対して有効性が期待されるGLP―1作動薬の自己注射も同様です。もっと難しいケースでは境界型糖尿病の患者さんへの栄養指導は原則認められていません。境界型糖尿病こそ栄養指導は必要と思いますが、現実は査定されることがあります。さらに糖尿病疑いでは、ヘモグロビンA1c測定は3カ月あけないと査定されます。逆流性食道炎に対するPPI製剤は頓服で出すと査定されます。などなど枚挙にいとまがありません。
私も最初のうちはこのようなルールを熟知しておらず、かなりの減点にみまわれました。一旦査定された場合は、良かれと思ってやったとクレームを言っても、またこのような新しい論文があるなどと訴えても覆ることはほとんどありません。
そこで頼ることができるのが保険医協会なのです。大幅に減点されたことを知って保険医協会に問い合わせると多くの事例をもとに理路整然と説明してくださり、次からは同じ過ちを犯さないようになりました。しかし、先に述べたいくつかのケースはごくわずかであり、実際のお作法は数百件に及びます。おかげさまで大金を失わずに済みました(笑)。
このようなお作法の集大成が、開業して約1年後に訪れる、魔の新規個別指導と言われるものです。指導の1週間前に10名の患者さんが指名され、カルテの二号用紙に相当する診療内容はもちろん、すべての検査・画像記録を印刷して厚生局・東京事務所に持ち込んで、指導医療官から1時間にわたる厳しい指導を受けます。検査した結果がどうであれ、カルテに記載していないと評価していないとみなされ、いわゆる検査判断料は算定できないと言われてしまいます。そして該当する診療報酬の返還を求められます。
ただ、「カルテに書いていないことはやっていないという原則」を学んだことは、その後のカルテ記載に大きな影響力を与えました。この新規個別指導対策のために保険医協会に入会するという先生方も多いと聞きます。実際、私自身も事前準備をして数多くの質問をすることで対策を立てることができ、何とかクリアできました。本当に感謝に堪えません。
保険医同士でつながり情報交換できる場所
しかし、保険医協会の存在価値はこれにとどまりません。同じ環境にある開業医の先生と知り合うことができ、情報交換が密になることです。支払基金の査定傾向は、都道府県、さらにその先の保険者によって微妙に異なるという話をよく聞きます。保険医協会のセミナーやイベントなどを通じて数多くの知り合いができ、情報収集にきわめて有用でした。
さらに同じ科の先生だけでなく他科の先生とも知り合う機会が多く、私は整形外科の先生が集まって情報交換する懇談会に参加させていただいたことがあります。骨粗鬆症は整形外科と内科の先生が診療することが多いですが、実際は治療方針が必ずしも同じではありません。異なった専門科から意見を戦わせることはきわめて有用で、このような機会があることも保険医協会の特長の一つです。
新規開業の先生には心から保険医協会への入会をお薦めします。決して後悔することはありません。
(『東京保険医新聞』2025年10月15日号掲載)


