[視点]マイナンバー制度をあらためて問い直す

公開日 2025年11月07日

マイナンバー制度をあらためて問い直す

                     

共通番号いらないネット 原田 富弘

導入目的を達成できず10年経過

 2015年10月に番号法が施行されて今年で10年経過した。マイナンバー制度は国民の権利を守るための制度と称して、公平・公正な社会や社会保障がきめ細やかに的確に行われる社会、行政に過誤や無駄のない社会、国民にとって利便性の高い社会、そして国民が自己情報をコントロールできる社会の実現を掲げて始まった。しかし10年経っても、そのいずれも実現していない。

 そればかりか2023年にはマイナンバーのひも付け誤りが大きな問題になった。「複数の機関に蓄積される個人の情報が同一人の情報であることの確認をする社会基盤」として作られたマイナンバー制度にとっては、致命的なトラブルだ。

個人情報が保護されない制度

 私たちはマイナンバー制度による監視社会化に反対する市民的抵抗として「書かない番号!持たないカード!」を呼びかけ、利用拡大の法改正に反対する運動に取り組むとともに、憲法で保障されたプライバシー権を侵害するマイナンバー制度の差止めを求める裁判を支援してきた。

 全国8カ所で2015年12月から10年続いた裁判では、本人同意もないまま個人情報をひも付けて利用する自己情報コントロール権侵害を批判するとともに、マイナンバー制度による基本的人権の侵害を防ぐために作られた個人情報保護委員会などの保護措置が機能せず、違法再委託などの漏洩も続いてきたことを具体的に立証してきた。

 しかし2023年3月9日に最高裁は先行した3高裁判決について、マイナンバー制度は法制度やシステム次第では情報の芋づる式流出や不当なデータマッチングなど具体的な危険が生じ得ると認めつつ、利用や提供の厳格な規制などによってその危険性は極めて低いと合憲判断をした。

 ところがその直後、最高裁が合憲理由の一つとした3分野への利用限定や法律で利用・提供が制限されていることを覆す番号法改正が行われた。私たちはこの最高裁判決後に東京・神奈川訴訟控訴審で法改正に対する弁論を求めたが、弁論は行われないまま上告棄却・不受理となり、改正番号法に対する最高裁の憲法判断は示されていない。

変質していったマイナンバー制度

 この裁判が進行する間に、マイナンバー制度は当初の姿を大きく変えてきた。自民党政府は法規制の緩いマイナンバーカードの電子証明書の発行番号を個人識別に使って官民の情報連携を広げるため、22年度末までに全住民にマイナンバーカードを所持させようと、2兆円を投じたマイナポイントやマイナ保険証などを推進してきた。

 2021年には「マイナンバー制度の抜本改善」を推進するためデジタル庁をつくった。マイナンバー制度の個人情報保護措置であるマイナポータルを逆用して、マイナンバーで管理する個人情報をマイナカードで同意ボタンを押せば民間に提供可能にする仕組みを広げたり、柔軟に情報共有するための公共サービスメッシュや自治体情報の利用を容易にする事務の標準化などを進めている。

 とくに産業界の要請を受けて、医療や教育など「準公共分野」の個人情報の官民での利活用に力を入れ、本人や医療機関の同意なしにカルテ情報の支払基金への提供を義務付ける医療法改正が審議中で、ここでもマイナンバーカードの電子証明書利用が鍵になっている。

これから警戒すべき動き

 2023年の番号法改正で、社会保障・税・災害対策以外にマイナンバーの利用を推進することになった。早速マイナンバーによる国家資格管理を社会保障関連以外の技術系などの資格に拡大し、今年の国会では在留資格管理の適正化への利用や武力攻撃事態等における避難住民の誘導など国民保護を利用事務に追加した。これらは「戦争できる国づくり」の一環とみることもできる。またサイバー先制攻撃法成立により警察の網羅的なネット監視が行われようとしており、番号法で警察のマイナンバー利用を認めていることはますます危険だ。

 2022年には経済財政諮問会議が新浪剛史経済同友会代表幹事を座長として、マイナンバーによる所得・資産把握で応能負担を徹底した社会保障制度の実現を求める「マイナンバーの利活用拡大に向けたロードマップ」をまとめている。2021年の国会で預貯金口座へのマイナンバー付番義務化の修正案を提案(自公も反対し否決)した国民民主党や日本維新の会が政権入りすると、社会保障抑制への利用が進むおそれがある。

 マイナンバーカードの保有率が約80%になり、所持が義務ではないにもかかわらず本人確認や就労時などでマイナンバーカードの提示を求める圧力が強くなってきた。マイナンバーカードが「デジタル社会のパスポート」になり「誰一人取り残さない監視社会」をつくらないためにも、最低限マイナカードがなくても不自由なく生活できる代替手段を必ず残さなければならない。そのためにもマイナ保険証の強制をさせないことは、大変重要な課題となっている。

(『東京保険医新聞』2025年11月5日号掲載)