公開日 2025年12月10日
11月26日、「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」控訴審の第一回口頭弁論が東京高裁101号法廷(三木素子裁判長)で開かれた。弁護団と全国から集まった原告19人が原告席で審理に臨んだ他、傍聴者は80人を超えた。
原告である医師・歯科医師と被告である国側の双方の書面を確認した他、原告側による意見陳述が行われた。控訴人の内、複数人が亡くなっていることから、相続人を通じての訴訟継続に関する意思確認を経て、次回の第二回口頭弁論は2026年2月25日に101号法廷で開かれることが決まった。

記者会見で、控訴審の論点を解説した(11月26日、司法記者クラブ)
原判決への反論まとめる
2024年11月28日の一審判決では原告の請求が棄却されたが、判決は原告の主張について正面から答えることなく、一方的に国側の主張を採用したものであった。
原告団は2024年12月12日に東京高裁へ控訴した後、2025年3月31日に控訴理由書、5月30日に控訴理由書補充書・専門家の意見書を提出する等、国や第一審判決(以下、原判決)に対して具体的に反論してきた。主な反論は以下のとおり。
①健康保険法は、下位法令に委任する場合、「必要な事項は厚生労働省令で定める」との文言を用いているが、70条1項は「厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならない」とするのみである。「担当」の語句から、医療サービスそのもの以外についても委任しているとした原判決の解釈は妥当でない。
②70条1項が、「療養の給付」について厚生労働省令に委任しているのは、医学的知見を踏まえた専門性が求められる事柄であることに基づく。一方、資格確認の方法は医師等の資格を要しない、事務的な行為に関する事柄であり、専門性の性質がまったく異なっている。
③オンライン資格確認の導入が医療機関の任意であることを示す2019年の健康保険法改定時の国会審議録について、原判決は、被保険者等にとって任意であるという意味だとしているが、明確な誤読である。
④原判決は、制約される権利の重要性を検討していないが、オンライン資格確認の義務化によって制約される権利は、職業活動の自由にかかわり、国民の生存権にもかかわる憲法上の重要な権利である。
⑤原告側が指摘する義務化に反対する意見について、原判決は、全国保険医団体連合会(保団連)および各都道府県の保険医協会・医会という「特定の団体内の意見」に限られているとしているが、保団連および全国の保険医協会・医会には医師・歯科医師の会員約10万7000人が広く加入しており、「特定の団体」と位置付けて無視する取り扱いは許されない。
また、11月12日に提出した準備書面では、最高裁判例が委任命令の適法性判断において、法律の文言を重視してきたことを過去の11の最高裁判例を基に指摘した他、資格確認はあくまで被保険者の義務であることを診療報酬請求権の法的性質から指摘している。
オン資義務化の不合理性「意見陳述」で訴え
口頭弁論では、原告側を代表して、佐藤一樹理事(原告団事務局長)が 意見陳述 を行った。
佐藤理事は、原判決が原告の主張に正面から向き合わず、無視していることを批判した。厚労省やNTT(オンライン資格確認システムのネットワーク回線を委託されている)による情報漏洩や不適切な情報取得が発生していること、さらに将来標準型電子カルテによって患者の医療情報を民間企業に利活用させることが計画されていることを挙げ、こうした状況では医師は患者の診療情報を守ることができないと述べた。
また、オンライン資格確認の義務化は、いわゆる「骨太方針2022」によって決定されたもので、医療界のメンバーがひとりもいない、経済財政諮問会議の意見を反映した閣議決定によるものであることを指摘した。多くの国民から評価を得られておらず、国会でも意見が割れているオンライン資格確認を、閣議決定で義務化することは民主主義に反すると訴えた。
勝訴に向け 思いを新たに
口頭弁論終了後、司法記者クラブで記者会見を開き、記者8人が参加した他、東京高裁近くの航空会館で記者・原告説明会を開催し、記者・原告等67人が参加した。
須田昭夫会長(原告団長)は、「情報は現代の『石油』だと言われるが、患者の医療情報が利益を生み出す道具にされようとしている。技術には良い面も悪い面もある。個人情報の収集・利活用を野放図に進めようとする国の姿勢を正したい」と挨拶した。また竹田智雄保団連会長は、マイナ保険証でのトラブルが現在も多発していることや、個人情報が守れないことを理由に閉院する地元の医療機関が出ていること等を報告し、医療崩壊に繋がる義務化を止めようと訴えた。
弁護団の二関辰郎弁護士が、控訴審での原告側の論点について解説した。弁護団長の喜田村洋一弁護士は、「法律の省令への委任について、これまで最高裁がどう判断したのかを示してきた。裁判長には最高裁の判断を先取りするような判決を書いていただけることを期待している」と述べた。
全国から集まった原告の中から、黒田康之岩手協会副会長、岡野久千葉協会会長、宇佐美宏千葉協会副会長、早坂美都東京歯科協会会長、橋本健一東京歯科協会理事、申偉秀東京協会理事、高本英司大阪協会副理事長、島津俊二兵庫協会評議員、杉山正隆福岡歯科協会副会長がフロア発言を行った。
「意見陳述で我々医療者の思いを伝えてくださり、法廷の中で拍手したい気持ちだった」「コロナ禍での対応に苦慮している医療機関に、オンライン資格確認を強制したことは許されない」「金銭的負担・患者対応の負担で、疲弊して閉院に追い込まれる医療機関が増えており、医療難民が生まれている」「デジタル化を通じて、社会保障を政府に都合良く作り替えようとする狙いが明らかになっている。裁判を運動の一環として、各協会で闘っていこう」等、地域医療の実情や訴訟にかける思いをそれぞれの発言者が述べた。
最後に中村洋一副会長が「訴訟に踏み切ったきっかけとして、2022年8月の厚労省説明会での、保険医取り消しをちらつかせた恫喝への強い怒りがある。私たちの医療人としての矜持を再確認して、勝訴に向かおう」と訴え、閉会した。

記者・原告説明会の模様(11月26日、航空会館)
(『東京保険医新聞』2025年12月5・15日号掲載)


