公開日 2025年12月10日
新たな地域医療構想と「医師偏在」対策について
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佛教大学社会福祉学部 長友 薫輝
1 公的医療費抑制策としての地域医療構想
長年にわたって公的医療費抑制策が継続している。
なかでも、地域という枠組みを設定し、地域内での病床を管理する手法は1985年の第1次医療法改正によって登場した「地域医療圏」に端を発する。地域ごとに病床数を管理することで供給量を調節し、公的医療費を抑制するための装置として発展してきた。
2016年にすべての都道府県において策定された地域医療構想はこの流れを汲んだ、地域ごとに病床数を規制する政策手法である。つまり、地域医療構想は公的医療費抑制策の一環の行政計画であり、2025年のあるべき医療供給体制を描くものとして策定された。
次期計画となる、2027年度から開始予定の新たな地域医療構想は2040年に向けた供給体制全般に係る計画として策定される予定である。策定に向けたガイドラインは今年度中に厚労省から示される。
2 新たな地域医療構想までに病床削減を加速
2025年6月、自民・公明・維新の3党合意で、国民医療費を年間で4兆円削減する方針が示された。新たな地域医療構想が開始される2027年4月までに、11万床を削減する政策推進がなされている。2025年度からは病床数適正化支援事業によって、廃止する1病床あたり約410万円の経済的な誘導型報奨(インセンティブ)があり、第二次予算内示までに全国の1万1274床が対象となった(意向調査段階では5万3716床)。
3党合意の2日後に閣議決定された「骨太の方針2025」にも「新たな地域医療構想に向けた病床削減」との記載があり、2027年度以降の新たな地域医療構想の策定までに、病床を削減する供給抑制策を加速させていることがわかる。
3 新たな地域医療構想
新たな地域医療構想の基本的な考え方は2040年に向け、外来・在宅、介護との連携、人材確保等も含めたあるべき医療提供体制の実現に資するよう策定・推進(将来のビジョン等、病床だけでなく医療機関機能に着目した機能分化・連携等)とされている。
2024年12月18日に公表された「新たな地域医療構想等に関する検討会とりまとめ」によれば、基本的な考え方として、新たな地域医療構想を医療計画の上位概念に位置付け、医療計画は新たな地域医療構想に即して具体的な取り組みを進めるものとされた。
新たな地域医療構想が地域の医療提供体制全体に及ぶものとなる。新たな地域医療構想の中で人材確保を含めた提供体制全体の再編を進め、従来の政策方針である「入院から在宅へ」「医療から介護へ」「介護から地域・自治体へ」といったタスクシフトと、供給抑制をはじめとする多岐にわたる公的医療費抑制策の展開を想定していることがわかる。
4 医師偏在対策の経済的インセンティブ
新たな地域医療構想に含まれる人材確保に関連して、医師偏在対策については医療法にもとづく医療提供体制確保の基本方針に位置付ける方針で、「骨太の方針2025」において、総合的な対策パッケージを実施すると示されている。
検討が重ねられており、現時点で判明している内容として、経済的なインセンティブや、規制的な手法の導入などが検討されている。人口減少よりも医療機関の減少速度が速い地域を「重点医師偏在対策区域」として、優先的に重点的に取り組みを進めるとしている。
重点区域には経済的なインセンティブとして診療所の承継・開業・地域定着支援を緊急的に先行して実施することや、派遣医師・従事医師への手当増額、医師の勤務や生活環境改善、派遣元医療機関への支援などが想定されている。
さらに医師偏在について、「骨太の方針2025」には「医師の適正配置のための支援の在り方について、全国的なマッチング機能やリカレント教育、医学教育を含めた総合的な診療能力を有する医師の育成、医師養成過程の取組と併せて、2025年末までに検討を行う」としている。
5 医師偏在対策の規制的な手法など
規制的な手法としては、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大を行い、対象医療機関に公的医療機関及び国立病院機構・地域医療機能推進機構・労働者健康安全機構の病院を追加し、勤務経験を6カ月以上から1年以上に延長するなどが想定されている。
外来医師過多区域における新規開業希望者に対して地域で必要な医療機能の要請等を行うことや、要請に従わない医療機関への勧告や公表、保険医療機関の指定医療機関の短縮(6年から3年等への短縮)等も検討されている。
保険医療機関の管理者要件については、保険医療機関に管理者を設け、2年の臨床研修及び保険医療機関において3年等保険診療に従事したことを要件として責務を課すなどが示されている。
このような医師偏在是正の取組とともに「2027年度以降の医学部定員の適正化を進める」(「骨太の方針2025」)とある。適正化は抑制または削減を意味する。医師偏在対策の限界はこの点に象徴される。医師の絶対数の不足を認めずに、あくまでも地域偏在に問題の所在があるという前提を崩していない。
「保険あってサービスなし」(「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」2025年9月11日 資料14頁)という地域はすでに各地で多発している。医師偏在是正の総合的パッケージで対応できるほどの軽微なものでなく、深刻な事態と受け止める必要がある。
(『東京保険医新聞』2025年12月5・15日号掲載)


