[視点]震災後におきている能登半島での医療の現状と課題

公開日 2026年01月26日

震災後におきている能登半島での医療の現状と課題

                     

小木クリニック 瀬島 照弘 

 小木クリニック(主たる診療=内科・外科、医科無床診療所、院外処方)(以下当院)がある能登町小木地区は、能登半島の北東部内浦側に位置し、富山湾に面する。周囲にはリアス海岸地形の九十九湾があり、主な産業は漁業などの一次産業である。当院は、半径4㎞圏内に他の医療機関がなく、基幹病院まではおよそ8㎞、医師1名・看護師2名・事務2名での運営、震災前当院医療圏人口は3800人程度、高齢化率50%を超える高齢過疎地域・医療過疎地域にある。

 令和6年能登半島地震は、2024年1月1日16時10分に発生し、地震直後に大津波警報が発令された。

 震源は、当院から北東に20㎞離れた珠洲市内の地下16㎞、内陸地殻内地震(M7・6)であり輪島市で最大震度7を観測した。この地震により、石川県では最大約3万4000人が避難し、犠牲者は直接死227名、2024年11月22日までに235名が災害関連死と認定され、死者数は災害関連死が直接死を上回った。

1 現在のフェーズでの医療的な課題

 あの時から2年が経過した。甚大な被害があった能登北部(2市2町)の人口減少率は震災前の2〜3倍となり、特に生産年齢人口の減少が深刻で、高齢過疎化が進んでいる。

 ある高齢の患者が、「商いを再建したが、人が居なくなり客が来ない、先行きがみえない」と不安を訴えていた。震災後『経済的な困窮』、『家族構成の変化』、『地域コミュニティーの変化』、『公共交通機関の便数の減少』、『精神的ストレス』、『持続する抑うつ気分』など震災の影響は今も残る。そして、被災者の中には、生きることにさえ不安を感じている方もいる。

 住宅が半壊以上などの大きな被害を受けた被災者は、今後も仮設住宅から災害公営住宅への転居、家賃、自宅再建での二重債務など、支援制度はあるものの、経済的負担を抱える。

 医療的な課題は、患者の受療機会が様々な要因で失われかけていることである(図1)

 

 被災地では、多くの生活再建のための住民支援制度がある。医療においては、震災直後の災害救助法での医療支援、窓口負担金免除などの支援制度があった。一方で、復興期の被災地医療支援制度において『医療財政への負担増大』、『受診行動への影響』、『制度の公平性・地域格差』、『医療機関側の経営への影響』、『医療打ち切りによる影響』等の課題が指摘されている。

2 人口減少と受療機会の減少

 能登北部(2市2町)の人口減少率は震災前の2倍となり、その内訳では生産年齢人口が顕著で、高齢過疎化が進んでいる。また、この地域(2市2町)の個別住民健診(特定健診、後期高齢者健康診断)では、2024年度の受診者数は、前年と比べ4割程度減少した。

3 受診行動の変化

⑴ 震災後の新患初診率の変化

 震災直後、避難生活で生活環境が大きく変化した。当院外来診療における、震災前の12カ月間と、避難所を閉所し仮設住宅入居開始以降の12カ月間との比較では、新患初診の割合は3%程度減少している

⑵ー1 令和6年能登半島地震における窓口負担免除制度について

 2025年6月末で終了した令和6年能登半島地震における医療の一部負担金免除制度とは、「令和6年能登半島地震」で被災された方が、医療機関などで診療を受ける際に、医療機関等の窓口で、次の①~⑤のいずれかに該当する被災者は窓口での支払いが免除となる制度であった。
①住家の全半壊、全半焼、床上浸水又はこれに準ずる被災をした
②主たる生計維持者が死亡し又は重篤な傷病を負った
③主たる生計維持者の行方が不明である
④主たる生計維持者が事業を廃止し、又は休止した 
⑤主たる生計維持者が失職し、現在収入がない

⑵ー2 窓口負担金免除制度利用における受診者分析

 当院での窓口負担金免除制度利用者は、2024年では総受診者数の15・7%であった。平均年齢76・5歳(45歳〜95歳)、加入保険別では後期高齢者医療が53%、国民健康保険が26%であった。受診理由は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の治療継続が86%であった。制度終了前後4カ月間の月平均受診回数の比較では、制度終了前1・097回 、後1・078回で有意な差は認めなかった。また、月平均診療報酬点数の比較でも、両群間で有意な差は認めていない(図2、3)

 

 医療支援制度による受診行動の変化について、負の側面での影響が少なく、経済的に大きな被害を受けた患者が、有事においても医療から離脱せず、必要な治療を継続することができていたと考える。

4 地域医療の課題

 高齢化と過疎化が進む地域では、震災の影響が非常に大きい。

 健診を含めた住民の受療機会が減少している。その要因には、家族構成の変化、地域コミュニティの変化、医療過疎、公共交通機関の減少などの【社会環境問題】、不活発によるフレイルの悪化、認知症の進行などの【身体的問題】、先行きが見えない不安、飲酒量の増加、不眠、抑うつ状態など【こころの問題】、そして、就労場所の減少、生活困窮などの【経済的問題】、そしてそれらの【複合】があげられる。

 医療機関では、人口減少によって新患初診率が減少している。また、看護師、介護士、薬剤師など多くの医療専門職不足が深刻化している。今後、地域医療・在宅医療の継続限界点が近く、医療介護の空洞化へ拍車がかかることが懸念される。

 今後、患者が必要とする医療から離脱しないように、受診行動の変化について、医療提供側は中長期的に経過観察をする必要がある。

5 おわりに

 令和6年能登半島地震によって多くの人が亡くなり、多くの人がこの町を去り、さらに高齢過疎の町となった。この地域での復興には、集約、淘汰、消滅など受け入れなければいけない現実があるかもしれない。

 持続可能な地域医療を提供するために、能登半島での疫学的な解析、過去の災害での事例、先行研究などを参考に、『医療財政への負担増大』、『受診行動への影響』、『制度の公平性・地域格差』、『医療機関側の経営への影響』、『医療打ち切りによる影響』を考慮し、high-risk approachする体制を強化することが重要である。医療過疎化した町では、地域医療機関(かかりつけ医)が、3H(Healthcare Triage,Helping Hand,Handover)で、多職種連携し、地域と共に伴走できる在宅医療体制を構築して、ここで住む人々が受療機会を失うことがないための対策が必要である。

 災害大国日本での2040年問題として、各地が抱える社会構造の変革が深刻である。災害など不安定な事象を踏まえ、持続可能な社会システムの構築が急務となっている。能登半島で今抱えている医療での課題が、近い将来日本の課題にならないように対策を考えなくてはならない。

(『東京保険医新聞』2026年1月25日号掲載)