[視点]介護保険をめぐる情勢と今後の課題

公開日 2026年05月29日

介護保険をめぐる情勢と今後の課題

                      
全日本民主医療機関連合会 介護・福祉部 林 泰則

1 介護保険の現状

⑴ サービス利用抑制の広がり

 介護保険は2000年4月のスタート以来、「制度の持続可能性の確保」のかけ声のもとで、給付の削減、利用者負担の引き上げが進められてきました。施設の食費・居住費は2005年から全額自己負担となり、当初1割負担だった利用料は、「一定以上所得」の場合は2割負担(2015年)、「現役並所得」の場合は3割負担(2018年)へと順次引き上げられました。軽度の給付を抑制する受け皿として、2015年から市町村が実施する、コスト・人員を抑えた「総合事業」が導入され、さらに特養ホームの入所対象が原則要介護3以上に制限されました。

⑵ 大きく揺らぐ介護サービス基盤

 2025年の介護事業所の倒産、休廃業・解散は829件に達し、過去最多を更新しました(図1)。特に2024年度介護報酬改定で基本報酬が引き下げられた訪問介護が突出しており(全体の67・1%)、訪問介護事業所がゼロになった市町村も急増しています。

 事業所の人手不足も深刻さを増しています。2023年は介護従事者の総数が初めて前年を下回りました。政府は2026年度に25万人の介護職員が不足する見通しを示していますが、肝心の処遇改善は遅々として進まず、介護職員と全産業平均との給与差は月額8・2万円(2025年)に広がっています。

⑶ 事業所の困難の背景に低介護報酬

 事業所の経営難、人手不足をつくりだしている原因は低く据え置かれてきた介護報酬です(図2)。特に基本報酬全体が4・48%引き下げられた2015年改定の影響は大きく、翌年の倒産件数は100件を超えました。その後は臨時改定を含めて「プラス」改定が続きましたが、小規模事業所を中心に経営は好転せず、倒産・廃業が減少する兆しはありません。直近の2024年度改定は辛うじて1・59%のプラス改定とはなりましたが、物価上昇分をカバーしうる水準ではなく、全産業平均との賃金差を埋めるにはほど遠い内容でした。

⑷ 公的制度として重大な「機能不全」状態

 総じて、利用者にとっては相次ぐ見直しで必要な介護を「受けられない」、事業者にとっては人手不足と経営難で必要とされる介護を「提供できない」事態が広がり続けている介護保険は、公的サービスを提供する制度として重大な「機能不全」状態に陥っているといってよいと思います。一方で、高齢者の介護保険料は右肩上がりで上昇し続けています。多額の保険料を納めているのに必要な時に必要なサービスを利用できない事態に対して、「国家的保険詐欺」との批判が強まっています。

2 政府が示した制度改革案の内容と問題点

⑴ 火種を残した「三大改悪」案

 2025年は3年に1度の介護保険の見直しが行われた年でした。利用者、事業所の困難が放置されたまま、3年前に実施見送りとなった「三大改悪」案(以下①~③)が再提案され、審議会での議論を経て以下の結論が示されました。

① 利用料の2割負担の対象拡大

 厚労省提案に対して審議会で反対意見が続出し、決着がつきませんでした。そのため今年に検討がそのまま持ち越され、「2026年度中に結論を得る」とされました〈継続審議〉。

② ケアプランの有料化

 現在のケアプランの有料化は見送られましたが、住宅型有料老人ホームに新たにケアプランの仕組みをつくって負担金を徴収する方針が示されました〈ケアプランの一部有料化〉。

③ 要介護1、2の生活援助等サービスの総合事業への移行

 総合事業の実施状況の地域差等を理由に、「引き続き検討する」とされました〈実施見送り〉。

 今回は3年前のような「三大改悪」案の全面的な実施中止には至らず、改悪の“火種”を残す結果となりました。

⑵ 2040年を視野に入れたサービス提供体制(2040年改革)

 さらに厚労省は、今後の人口動態や介護需要の変化をふまえ、全体を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市」の3つに区分し、2040年に向けたそれぞれの対応策を示しました。特に「中山間・人口減少地域」では、人手不足などでサービス提供の維持・確保が困難な事態に対し、事業所の職員の配置基準の弾力化など、事業運営の「柔軟化」を図る新たなサービス類型を創設する方針が示されました。

3 今後の運動のステージと課題

 昨年来、社保協、全労連、民医連の3者を中心に取り組んできた介護請願署名は5月末に最終提出となり、7月からは新たな署名に切り替わります。国に対する運動は、開会中の特別国会から今秋の臨時国会、そして来年の通常国会へとステージを移していくことになります。

⑴ 利用者、事業所の困難の打開

 第1に、新たな制度改悪は必ず阻止しなければなりません。「利用料2割負担の対象拡大」は、臨時国会に法案が提出されることが想定されます。ケアプランの一部有料化を許してしまえば、3年後に全面的な有料化の突破口となっていくことは確実です。

 第2に、2027年度介護報酬改定において、安定的な事業運営と職員の大幅な処遇改善を可能とする引き上げを必ず実現させる必要があります。2025年度補正予算による処遇改善策も、6月からの介護報酬期中改定も、全産業平均との差を埋めるにはまったく不十分な内容にとどまっています。

 第3は、現在「機能不全」状態に直面している介護保険制度の立て直しであり、費用負担の軽減や給付の改善などの見直しを強く求めます。そのためには、国の負担割合(現在25%)を引き上げていくことが不可欠です。

⑵ 政府が示した「2040年改革」に対して

 介護保険が全国一律の制度であるにもかかわらず、人口減少を理由に「介護格差」を制度化することには大きな疑問を抱かざるを得ません。必要なことは、国の責任により、地域事情にかかわらず介護事業を継続し、介護サービスの基盤を維持することです。従来型の給付抑制路線を切り替え、公的給付を拡大する方向に政策全体を転換させることこそ必要だと思います。

(『東京保険医新聞』2026年5月25日号掲載)