公開日 2026年06月30日
いま、再エネを再起動させるとき
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京都大学公共政策大学院 諸富 徹
イラン戦争の影響を受け、原油価格の高騰やナフサの供給不足が問題になっている。いまこそ、中東に依存しない国産エネルギーとして再生可能エネルギー(「再エネ」)の出番だ。しかし、再エネに投資が一挙に向かう兆候は今のところ、見られない。なぜか。
再エネ停滞 2つの理由
2011年の東日本大震災による福島第一原発事故を受け、日本は2012年に「再エネ固定価格買取制度」を導入、再エネを強力に推進し始めた。市場価格より高く再エネ電力を買い取るこの仕組みは、再エネ事業をビジネスとして成り立たせることに成功した。
太陽光を中心に再エネが飛躍的に伸びた結果、発電電力量のうち約4分の1は再エネ由来となった。にもかかわらず、ここにきて再エネの伸びは停滞している。その理由は、2点ある。
第1は、純粋にビジネスとしての採算性の問題だ。再エネの買取価格は段階的に引き下げられてきた。他方、インフレで部品・設備費が増加し、人手不足で人件費も上昇したため、事業が各所で逆ザヤに陥っている。事業者が投資を手控えたり、銀行が融資を控えたりしている所以だ。
この問題に対処するには、再エネ支援政策の再強化が必要になる。買取価格は名目上の金額で定められているので、インフレで実質的に減価する。インフレ率に合わせて買取額を引き上げなければ、投資インセンティブは失われる。
これまで、再エネの発電コストは低下し続けてきたので、政府には、「再エネはいずれ自立できるはず」という想定があった。支援額を引き上げるのは、この想定に逆行する。だが、現実は洋上風力発電における三菱商事の撤退のような衝撃を生み出している。こうした事態が繰り返されないよう、ここは支援を再び強化すべきタイミングだ。
第2は近年、急速に高まっている再エネへの「反感」だ。メガソーラーをはじめ、再エネ設備の存在感が大きくなり、景観に悪影響を与えたり、森林を伐採するなど生態系を破壊したり、さらには傾斜地に設置された設備が災害を誘発しかねない事例が後を絶たない。再エネ発電設備が、地域住民から忌避される「迷惑施設」化した事例が増えているのだ。
これを受けて、再エネ発電設備の立地規制条例を導入した自治体もある。森林を伐採する再エネ開発案件に対して、課税する仕組みを導入した自治体もある。日本はもともと、都市計画/土地利用計画に関する自治体の権限が弱い。問題のある開発案件であっても、要件を形式的に満たしていれば、自治体は許可せざるをえない。結果として、地域の人々に納得感がないまま開発が強行されてしまう。
再エネ開発が、地域に利益をもたらさないのも問題だ。たいていは東京や大阪などの事業者が再エネ開発を行い、その利益は事業会社のものになる。地域には土地の賃料や固定資産税収など若干の利益は落ちるものの、利益の大半は大都市へ流出する。これは、高度成長期から繰り返されてきた「収奪型の地域開発」と構造がよく似ている。
全国で取り組まれる「地域共生型再エネ」
以上から浮上してきたのが、「地域共生型再エネ」という考え方の重要性だ。これは地域住民・企業が、計画段階から再エネ開発のプロセスに参加し、事業成功の暁には、利益の一部が地元に入る仕組みを内蔵したビジネスモデルである。地域は、得られた利益を再投資し、地域を発展に導くプロジェクトを実行する。再エネ事業収益は、そのための貴重な原資となる。
例えば、筆者が調査した山形県遊佐町の洋上風力発電事業は、まさにその実践例といえる。海上に30本もの風車が立てば、地元漁業は大きな打撃を受ける。現在の漁法はそのまま続けられない。だが、漁業協同組合(漁協)はこの開発計画を受け入れた。なぜか。漁獲量は年々減少の一途を辿っており、後継者も育っていない。洋上風力を拒絶したところで、漁業に明るい将来展望が描けるわけではない。
漁協は洋上風力を受け入れる代わりに、事業収益から得られる収入を漁業に再投資し、その高度化や観光産業化、さらに魚の販路拡大を目指すことにした。国や県が事業者との協力を後押ししていることも大きい。
事業者にとってはたしかに、地元との調整に手間がかかる。事業収益の地元還元は、自らの利益率を引き下げる。しかし、それをやらなければ事業は頓挫していた可能性が高い。そもそも海域利用法上の入札で、地元貢献は大きな評価ポイントである。地元貢献の具体策を示すことなしに落札に成功するのは困難だ。
いま、全国各地で地域共生型再エネ事業を目指して、様々な試みが実践されている。イラン戦争による原油価格の高騰は、石炭やガスなど他の化石燃料の価格上昇をも引き起こしている。日本で約7割を占める火力発電のコスト増は今後、電気料金の上昇に反映される。逆にいえば、再エネ発電の価格競争力は増す。
東京都は条例で、新築の住宅・建築物の屋根に太陽光パネル設置を住宅メーカーに義務づけている。その電力を自家消費すれば電気代がかからないので、電力料金分の負担を抑えられる。設備導入コストは、補助を入れて6年程度で回収できる。電力料金の上昇は、太陽光発電による自家消費の経済メリットを拡大させ、回収年数を短縮する。各地の地域共生型再エネにも、同じことが言える。
これは、分散型電源としての再エネにとって、新たな好機となる。日本の強みは、過去に何度も危機を好機に転じ、新たな発展を遂げてきた点にある。この好機をとらえ、いまこそ再エネを再起動すべき時だ。
(『東京保険医新聞』2026年6月25日号掲載)


