公開日 2026年08月28日
国家情報会議設置法が民主主義と人権保障に与える負の影響
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弁護士・秘密保護法対策弁護団共同代表 海渡 雄一
1 二段階で進められているスパイ防止法案制定
2025年10月20日に自民党と日本維新の会が作成した「連立政権合意書」には、スパイ防止関連法制の成立が盛り込まれた。2026年5月27日、参議院本会議で、国家情報会議設置法案=国家情報局設置法案が可決され、成立した。国家情報局設置法は、内閣総理大臣をトップとし、各省大臣をメンバーとする国家情報会議を立ち上げて、その事務局を、内閣情報調査室を格上げした国家情報局が担うとする法律である。これが、スパイ防止法案の第1弾である。
自民党、維新の会、公明党、国民民主党、参政党、保守党、チーム未来が賛成した。立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党、沖縄の風、無所属の永江たか子議員が反対した。
私たちは、この法案の可決・成立に強く抗議し、同法の運用を厳しく監視していく。次に第2弾として、2027年の通常国会には、スパイ防止法、外国代理人規制法、対外情報庁法案、インテリジェンス関係者安全保護法案、行政による通信傍受法制などの提案が予測される。これらのスパイ防止関連法制の制定に強く反対していきたい。
2 国家情報局設置の立法事実はない
⑴ 既存活動限界を画する法規範の不在
政府与党は、「G7の中で情報局を持たないのは日本だけであり、日本は情報局がないためにスパイ天国となっており、これを改善するために国家情報局の設立が求められている」と説明する。しかし、現状の情報機関で捉えることのできないスパイ事例としてどのようなものがあるのか、結局国会審議で明らかにされることはなかった。
新たに強大な情報機関を作るのであれば、内閣情報調査室や警備公安警察、自衛隊の情報保全隊、公安調査庁など、既存の情報機関に対する歴史的検証を欠いてはならないはずであるが、このような作業は全く行われなかった。
⑵ 石破政権時の「日本はスパイ天国ではない」との答弁と矛盾
山本太郎議員の質問主意書に対する石破茂内閣総理大臣(当時)の答弁書(内閣参質218第8号(令和7年8月15日閣議決定))によれば、「御指摘のように『各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家である』とは考えていない」と答弁していた。戦争を放棄し、すべての国際紛争を外交などの平和的手段によって解決することを宣言した日本国憲法のもとで、戦争の道具となりかねない国家情報局や対外情報庁は、平和国家日本にはふさわしくないと考えられてきたのである。
3 今後の運動のステージと課題
⑴ 活動限界を画する法規範の不在
法案には、国家情報局がどのような活動をしてはならないかが規定されていない。
各国の情報機関においては、特定の政党に資するような活動を禁止するなど、政治的中立性を確保するための措置の法定、どのような情報を収集してはならないか、個人のプライバシーの中核をなす情報の収集禁止、弁護士と依頼者間の情報の取得の禁止、ジャーナリストと取材対象者との間の情報の取得の禁止などが広く定められている。
例えば韓国では、2024年の尹錫悦大統領による非常戒厳宣言の発令時、尹大統領は、政権に批判的な政治家の拘束や位置情報の追跡を国家情報院に命じた。しかし、国家情報院の幹部は国家情報院法の改正法を根拠にこの指示を拒否し、大統領の指示した違法行為に加担しなかった。明確な法規制があったことによって、韓国の民主主義体制は守られたのである。
⑵ 情報が国家情報局に一括集約される危険性
今回の国家情報局の設置について、内閣総理大臣の権限を梃子として、すべての省庁が保有する情報を強制的に集約できる権限が産まれるのではないかという危惧がある。
国家情報会議のトップは内閣総理大臣である。私とともに参考人に招聘された北村滋氏は、2012年9月に公刊した著書『情報と国家』のなかで内閣情報機関の設置を提言し、これまで府省が取り扱ってきた情報のうち、我が国の対外政策、安全保障、危機管理の基本に関わるものについては、法令上の権限として、内閣情報機関の長にアクセス権が保障されるべきだと提言している。参考人の公述でも、北村氏は国家情報局法案の7条2項がこのような権限を認めていると説明した。
政府は、マイナンバーに紐づけられた情報や、能動的サイバー防御法に基づいて集められたサイバー上の情報などについても、必要があれば利用すると国会で答弁している。このような答弁をもとに考えれば、個人情報保護法69条が定める情報の目的外使用が常態化するおそれがある。
⑶ 組織法に過ぎないという言い訳は成り立たない
これらの問いに関して、政府は、国家情報局法案は組織法であり、新たな権限を付け加えるものではないから、その活動の限界を画する法制度は不要であると説明している。しかし、諸外国では組織法の中で、上記のような規制を定めているのであって、このような言い訳は成り立たない。
⑷ 国家情報局が公安警察主導の政治警察化する危険性
国家安全保障会議と国家情報会議が、いずれも内閣総理大臣をトップとして、主要閣僚によって構成される組織として並立することから、政治・政策部門と情報部門が分離されず、むしろ融合する危険性が大きい。そして、いずれもが警備公安警察によって担われるといういびつな政治構造が生まれる危険性が高い。
⑸ 普通の市民活動が監視対象とされる可能性
高市首相は「政府の政策に反対するデモそのものが情報活動の関心の対象となることは一般的に想定し難い」と答弁した。しかし、実際には多くの公安警察官が、スパイ防止法案に反対するペンライトデモを取り巻いて情報収集をしていた。公安警察による市民運動に対する情報収集活動は、それ自体が違法であると判示した名古屋高裁2024年9月13日大垣署事件判決は、公安警察が市民活動の情報を収集している実態を明らかにした。
⑹ 政府要人や政治家に対する公安警察による監視が既に実施されている
加計学園問題では、安倍総理大臣(当時)ら官邸幹部が大学の認可に便宜を図った可能性を文部科学省前事務次官の前川喜平氏が会見を開いて告発した。これに先立って、2017年5月22日の読売新聞朝刊は、同氏が「出会い系バー」に通っていたと突如報じた。
前川氏は、この報道は「官邸の関与があったと考えている」と指摘した。多くの政治家や官僚が公安警察に弱みを握られ、黙らされている可能性がある。
4 独立第三者機関による情報機関への監視こそ必要
5月26日の内閣委員会に立憲民主党は、①定義の明確化②職員の政治的中立性確保③国会報告の義務化だけでなく、第三者機関を設置し、人権配慮や中立性を独立した立場で検証・監査する新機関の設置を検討することを修正提案した。立憲民主党が修正案を提案し、原案に反対したことは、全国で取り組まれた市民活動の成果である。
5 外国代理人規制制度、行政傍受の制度化、対外情報庁の設置に反対する
外国通報目的の秘密漏洩を死刑、無期拘禁などの厳罰に処す法案と外国代理人規制法案ないしは外国勢力活動透明化法案という名の、日本国民が外国の人々と政治活動だけでなく、さまざまな活動を協働する行為にスパイ予備軍との疑いの目をもって、国家情報局等への広範な登録を義務付ける法案が提案される高い可能性がある。
このような制度は、アメリカ、イギリス、ロシア、フランスなど世界各国で制定されている。ただし、ドイツは未制定である。ロシアの法案は、政府の見解と異なる見解を公表するNGO活動を封殺するものとしてヨーロッパ人権裁判所から表現の自由などを侵害するものとの判決を受けている。米・英・仏の制度についても、強い弊害があり、野党や多くのNGOはこの制度に反対している。
さらに、来年の通常国会には、対外情報庁法案が提案されるだろう。対外情報庁は、アメリカのCIA、イギリスのMI6にあたる機関である。日本製のスパイを養成し、彼らを世界各国に派遣して、スパイ活動をさせようという計画である。諜報のため、日本のスパイに仮装身分を認める制度(マイナンバーを2つ持つということ)なども提案される見通しである。
関連法案の内容を審議するため、2026年夏には有識者会議が立ち上げられる見通しである。私たちは、その動向を注視し、問題点を掘り下げていく。
最後に、私たちは困難な状況の中から反対運動を展開し、法案の成立は許したものの、国会を取り囲み、全国で連帯する市民の波を産み出した。
立憲民主党が、独立第三者機関の設立の検討をも含んだ修正案を提起し、原案に反対したことは画期的な成果といえる。そして、このことは、2027年度に提案が予定されているスパイ防止法案などの関連法制の全体について取り組む橋頭堡を得たといえる。今後の闘いに、ぜひ、ご支援・ご協力をお願いします。
(『東京保険医新聞』2026年8月25日号掲載)


